第201話 魔物にこらえ性はない
……どうも魔物はこらえ性がないらしい。慎重という言葉はないようだ。
明日攻めてくるかとも思ったが、食って休んだ後にすぐに攻めて来た。時は夕暮れ前。
「ギャオオオオオオオオー!」
嫌な雄叫びがアルテミス湖に響き渡る。先に動いたのはゴブリンが乗っている船団。
見た感じは、ヴァイキングが使っていたクナール船。魔物にも技術力はある。
俺と同じく、誰かが知識を教えているのだろう。魔王という奴かな? うーやだやだ。
さほど大きくない帆掛け船だが、オールも使って漕いでるので機動力はある。
「攻撃開始じゃ!」
「うおおおおおおー!」
エルフのロビンさんの号令で、武装船団が前進する。こっちは蒸気船、敵の船より速い。
絶好の位置取りをすると、ボウ銃での攻撃を始める。弓の射程もこちらが上。
空を埋め尽くすほどの矢が飛んだ。まともに食らえば一溜まりもあるまい。
これでゴブリンどもは、ハリネズミにな……らなかった。
「アギャ、アギャ、アギャ――――!」
奇声を発して何を言ってるかはわからないが、やったことは分かった。
赤い盾精霊が現れて、威力のある矢を防いだのだ。
薄汚れた赤いローブをまとった、魔法使いが船に乗っており、数は数十人ほど。
あれが、ゴブリンメイジというやつだろう。船と魔物達を守っている。
更に船縁にかけてあった、
「頭の上も盾で守ってやがる。
「魔物もやるわね。
俺とフローラは魔物の戦いぶりを見て感心し、驚いていた。
やはり、ただやられるだけの雑魚モンスターではなく、戦法を理解している。
ボウ銃だけで片がつくとは思っていなかったが、予想以上の善戦ぶりだ。
「このまま、蒸気船に近づいて白兵戦をしかける気なんでしょうね?」
「乱戦になると大変だわん!」
「そうだな、犠牲者がかなりでるだろう。だが、そうはさせんよ!」
俺が言わなくても魔物の意図は、みんな分かっている。こっちもアホではない。
もうとっくに別働隊が動いていた。
そして、陸戦も始まろうとしていた……。
前線の防御陣地から大声が聞こえてくる。
「そりゃー! 放てえ――――!」
「おおっ!」
ゴブリンとコボルドの歩兵団が迫ってくると、ドワーフのチャールズさんは合図を出して攻撃を開始した。
もの凄い速さで空を飛んでいくのは、たくさんの丸い砲弾。鋳造で作った鉄球だ。
球を撃ち出しているのは、バネ式
様々なバリエーションが作られ、蒸気機関で動いている。これも対魔物用兵器の一つ。
「キャイン!」
コボルドに球が命中すると、頭がふっとんだ。肉片と血がそこら中に飛び散る。
大砲でなくても敵を倒すことはできる。
むしろ投石機の方が手間がかからず、撃つのは早い。大砲は火縄銃と同じく発射まで時間がかかるのだ。
飛距離も十分であり、威力は言うまでもない。
陣地には何十台もの投石機があり、大小様々な球を連続で撃ちだしていた。
中には穴を開けた球もあり、不気味な音を立てて飛んでいく。脅しの効果がある。
流石に魔物部隊は後退して一旦下がった。ただ、あきらめた様子はない。
こっちも密集隊形を組んでから亀甲防御態勢をとり、精霊を召喚してバリアを張り、少しずつ前進してくる。
「ふん、盾ごと粉砕してくれるわ! のうオグマ」
「うむ!」
重い投石機を動かすのはあくまで人。蒸気機械は補助にすぎない。
向きと角度を変えて狙いをつけ、さらに鉄球をセットする作業は、かなりの腕力がいる。
力自慢のドワーフとオークだからこそ、素早くやれるのだ。
二部族は製造で共同作業することが多く、仲も良い。凸凹コンビのチームワークは抜群だ。
「あいつら、影も形もないようにしてやる!」
「ミンチだ! ミンチだ! ミンチだあぁ!」
……まあ、言ってることは過激であった。攻めてくる魔物が悪いのだが。
それと全員機嫌が悪くて怒っている。理由は……あとで述べよう。
前線陣地の防御は万全。
鉄球の雨をくぐり抜けたとしても、次に待ち構えているのは長い空堀で、深さは三メートルもある。
一度落ちてしまえば、背の高いオークでさえ這い上がるのは困難。もたもたしてると、岩と樽が転がり落ちてくるのだ。
スポーツバラエティのアスレチックとは違い、地獄の罠が待ち構えている。
水に落ちたら終わりではなく、息の根が止まるまで続くのだ。けっけけけけけ!
最後はアルザス騎士団。陣の両脇に控えており、接近してきた敵を迎え撃つ。
まだ戦いは序盤、俺達は慎重に戦いを進めていた。
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