第206話 今後の予定を立てたい

 次の日になり、市場祭はスケジュール通りにイベントが進められていた。


 魔物のせいで潰れた一日は、最終日を調整して行われることになる。

 順延にすると混乱するので、予備日はもうけていた。


 桜は満開、祭りは大盛況。また魔物が襲ってこないか心配だが、ロリエが言うには、


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。占いだとしばらくは来ないわ」


「そっか、なら安心だな。ロリエちゃん」


「次の魔物の襲来は、たぶん秋頃ね……」


「まだ時間はあるか……」


 戦争は始まったばかりで、今回は前哨戦。次が本当の戦いだ。


 今は祭りを楽しみ、英気を養うことにしよう。



 夢のような楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去り、市場祭は終わる。


「やだ、やだ! 帰りたくない! もっとみんなと遊びたい!」


「コラッ! もう終わりなの! お金もないの!」


 駄々をこねる子供に親は手を焼く。それだけ祭りが楽しかったのだろう。


 まだデパートや遊園地がないから、こうして遊べる機会は年にたった二回だけ。


 名残惜しくなるのも分かる。家族連れを見て、俺は思わず笑ってしまった。


 俺自身は甘える機会もなかったから、羨ましく思う。


 日本の祭りの時は何をしていたかと言うと、ガキの頃から店番やら荷物運びで稼いでました。


 あと余り物をもらって、家計の足しにします。偉いかな?


 生活するだけなら叔父の収入で十分だったが、俺にはある目的があったので、金を稼ぐ必要があったのだ。まあ、自慢することじゃないけどね。



 そして祭りの打ち上げが始まる。


「カンパーイ!」


「いただきます!」


 秋とは違い、族長達だけでなく運営に関わった人達が、たくさん集まっていた。


 フローラ達や奥様軍団も飲み会に参加している。


 やはりイベントの規模が大きくなればなるほど、裏方の仕事と苦労は増えて大変だった。


 大勢のボランティアの人達には、頭が下がる思いだ。


 祭りには参加できなかったので、ここでねぎらう。


 余興に歌やダンスが披露され、大いに盛り上がった。やっぱり平和はいい。

 こうして夜は更けていった。



 そして次の日は後片付け。午後からにしたのだが、男連中は二日酔いで動きが悪かった。


 同じ事を繰り返してるので、「少しは飲むのを抑えろ」と言いたい。


「ほら、キビキビ働きなさい!」


 奥様軍団が指示を出し、テキパキと撤収作業を進めていた。


 ちなみに今年は秋の収穫祭をする予定はなく、戦争の準備が進められる。


 片付けが一段落して、俺はフローラ達と休憩しお茶を飲む。


「海彦、これからどうするの?」


「アルテミス湖の城塞建設は順調だ。もう俺が口出しすることはない。みんなアイデア満載だから、あとは任せた方がいい。だから各村々を訪問して、みんなを激励したいと思う。魔物の総攻撃まであと半年。やれることはやっておかないとな、時間はあるようでない」


「いい考えだわさ! 海彦が来れば勇気づけられるわ」


「うんうん、なのだー!」


「付き合うわよ」


「私も取材がてらに、海彦様についていきますわ!」


「……まあいいけど。ただ、何日かは村に残ってくれよ。戦略物資の生産状況を、電話で知らせてくれ。アルテミス湖に送る分とは別に、村にも予備を残しておきたいからな」


「わかったわ」


 前々から考えていたことを、みんなに伝える。族長達にも話を通しておく。


 戦争は国家総動員。皆が一丸となって物資を作らねばならない。


 それは武器だけでなく、衣料・食料・医薬品などあらゆる物が必要だ。


 だから軍事費は天文学的に増大していく。勝っても負けても財政は破綻する。

 戦争はムダの極みだ!


 ヘスペリスの人達が無償労働してくれるからこそ、生産が成り立っていた。


 まあ自分達の生存権がかかっているので、金のことなど言ってはいられない。



 魔物らも似たようなものだろう。


 貨幣経済があるわけではないから、ただ魔王に従う奴隷戦士のようなものだ。


 そこに意志はあるのかな? そもそも、襲ってくる目的はなんなのか?


 対話が出来ない以上、戦うしかない。


 リザードマンの見事の引き際を見て、統率者がいるのは間違いないだろう。


 魔物はゲームに出てくるような、弱いモンスターではなく、組織化されてる戦闘集団だ。


 さらに数もいるとなれば、苦戦は必至……それでも負ける気はないけどな!


「ただ、最終作戦だけはやりたくない……」


 俺の考えは、まだ誰にも話してはいない。あまりにも過激すぎるからだ。


 だから今回の村巡りで、族長達に伝えて判断してもらうつもりだった。


 反対されたら別の手を考えるしかないな……。

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