第199話 デートではない
すでに参号機は空高く飛んでいるのだが、弐号機の上昇が遅い。
見たところ気球に異常は見られず、原因は不明。俺は首をかしげる。
「なにか
上から丸められた新聞紙がぶつけられる。ゴンドラから雅が投げつけていた。
「すみませーん、海彦様。手が滑っちゃいました」
「そっかー、手が滑ったのなら仕方ないな…………なわけあるかい!」
たまーに雅が俺を攻撃してくるのだが、理由が全く分からん。
女は理不尽なとこもあるので、気にしてもしゃーないだろう。
どうやらカメラ機材を積み過ぎたのが原因らしい。減らすと弐号機も徐々に昇っていった。
「うーん……」
女達は順番に気球に乗っていたが、なぜかフローラは乗らずに考え込んでいた。
話しかけても上の空。仕方ないので俺は店に戻ることにする。仕事はせんと。
……次の日の朝、俺はフローラに手を引かれ、強引に広場に連れていかれる。
「さあー、乗るわよ!」
「まあ、いいけどさ……」
フローラはかなり気合いが入っていた。どうやら、俺と気球に乗りたかったらしい。
リンダも一緒だが、ハイドラがいないので上昇するだけになりそう……と、思っていたらフレームにつけてあったプロペラがない!
代わりにあったのは、小型の帆である。
形はパラシュートで
「いでよ、シルフ!」
「ひー、ひー、ひー!」
風精霊が現れて、帆に風を送ると気球は進んでいった。
もともと帆船を動かすほどの風力があるのだから、気球でもいける。
まあ、いつもながら精霊さんは大変ですが。
どうやらフローラは昨日のうちに、帆を用意して取り付けたらしい。
「わー、村が小さく見えるわ!」
「そうだな……」
昨日見たばかりなので、俺はあまり感動はしない。
フローラは浮かれているので、デート感覚なのだろう。
楽しんでるので水を差さず、適当に合わせておこ…………えっ!?
「ちょっと待て! リンダ、霧が薄くなってないか!?」
「だわさ! 昨日と比べて厚みがなくなってる! 間違いないわ!」
「海彦! アレ!」
フローラが指した方向を双眼鏡で見れば、
「魔物の軍だ! かなりいるぞ!」
「こっちに向かってきているわ! 速い!」
「急いで戻るだわさ!」
リンダは気球を急降下させ、その間に俺は手鏡を使い太陽光を反射させて、下に合図を送る。
見張り台からの
距離は遠いし見張り台の位置からだと、森林が視界を塞いでいるからだ。
それと魔物達は川下りをしており、低い位置にいるので、空からでなければ見つけられない。
気球が原っぱに着地すると同時に、駆けつけてきたみんなに言った。
「魔物よ!」
「弐号機、参号機を発進させてくれ! カメラと無線機を積んでな!」
「分かったー!」
俺はゴンドラから飛び降りて、運営本部に電話をかける。受け取ったのはミシェル。
「ミシェル大変だ! 魔物の軍がアルテミス湖に向かってきてる! 北東方向からだ!」
『なんだと!? 分かった、すぐに王と族長達に連絡して
「頼む!」
やはり、直ぐに伝えられる電話があるのはいい。
伝令兵の
すぐに警報サイレンがアルテミス湖一帯に鳴り響き、ラジオからは警戒速報が流れる。
『たった今、勇者様より魔物を発見したとの連絡がありました。詳細は確認中ですので、続報をお待ちください。市場祭は一時中止しますので、火の元の管理を徹底してください。戦士の皆様は戦う準備を、女性・子供は避難場所へ慌てずに移動してください。繰り返します……』
雅の放送を聞きながら、俺も本部へ急いで向かうことにする。そこが本陣に変わるだろう。
「海彦、フローラ! 荷台に乗って!」
「助かる、ハイドラ!」
気球からの光の合図に気づき、電動オート三輪でかけつけてくれたのだ。
リンダは残って気球での偵察を続ける。
みんなが協力して助け合う。この団結力に勝るものはない。
それと魔物もアホだな、この市場祭に来てる人達は五千人以上。
人数は多く、子供をのぞけば全員が強い戦士だ。誰もが直ぐにでも戦える。
俺達が本部に到着すると、いたのはエリックさんと雅、あとは無線担当だけである。
族長達の姿はなかった……。
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