第198話 空を飛びたい
俺はイベント広場に足を運ぶ。ここは原っぱで何もない広い場所だ。
そこに大勢の人達が集まっていて、上を見上げている。
「よーしいいぞ、
「浮いた! ロープを引け、ゴンドラを押さえろ!」
みんなが見ていたのは、大きな熱気球。
前年にエリックさんと族長達に頼んで、作ってもらっていた。
「魔物の動きを空から見たいので、気球を作りましょう」
「分かった!」
「うむ!」
これもみんなが協力してくれることになり、材料が集められて各村でパーツが製造された。
一番大変だったのは巨大な布袋の作成だ。フローラと奥様軍団がいなければ、球皮は作れなかっただろう。
あと、ミシンがあればこそである。手縫いではバラツキが出るし遅い。
知識だけがあっても、人員と材料と道具がなければ、何も作れないのだ。
気球をふくらますには熱風がいるが、そこはサラマンダーとシルフの
精霊さん達が見事にふくらませてくれた。いつもありがとうございます。
俺はゴンドラに近づいて乗り込む。
最初に乗せてもらえることになっていたのだが、フローラがごねる。
「さて、初飛行といきますか」
「うう、なんで私が最初に乗れないのよ!」
「しゃーないだろ、定員は三人。リンダには気球の上昇・下降と操縦をやってもらうし、ハイドラには電動プロペラを回してもらう」
「そんなにスピードは出ないけどねん」
そう、気球には小型プロペラがつけてあった。
推進器を球皮とゴンドラのどちらかにつけると、バラバラに動くので危険であり、思うようには進まないのだ。
通常、気球は風に流されるだけである。
そこでアルミ合金で軽いフレームをつくり、球皮とゴンドラを上手く繋げる。
外に張り出したフレームに電動プロペラをつけ、一体となって前に進めるようにしたのだ。
他にも金属ワイヤーやステンレス管を使って、気球全体の強度を上げていた。
流石はチャールズさんとドワーフ達である。
それとゴンドラ内にガスバーナーや発電機を置く必要がないので、総重量は軽くなり、その分人を乗せられる。
ホビットなら五人はいけるだろう。あとは精霊さん頑張ってください!
「じゃー、行くだわさ。ゲルラの炎!」
「おう!」
係留ロープが外されて気球がドンドン上昇し、地上にいる人達が小さくなっていく。
歓声が鳴り止まない。空に浮かぶ物を見たのが初めてなので、みんなが興奮していた。
「景色が綺麗だわん!」
「だわさ!」
リンダとハイドラも、上空から見る景色に感動してるようだ。
自然豊かなヘスペリスを一望できるのは、気持ちがいい。
「高度、約三百メートル。高層ビル並の高さだ。こうして上空から見て見ると、やっぱり霧の厚さは薄くなってるな」
「ええ、でもその向こうに別な世界が広がってるわん!」
「魔物はいないようだわさ」
まだ気圧式の高度計はないので、俺は小型のレーザー距離計を代用し高度を確認していた。
これだと、最大1キロメートルまで計れる。
見たところ結界の霧の高さは五十メートルくらいで、ヘスペリス全体を囲んでいる。
それも、無くなる日が近いだろう。
「じゃー気球を動かしてみるわねん。いでよボルト! イシュクルの雷光!」
ハイドラが雷精霊を召喚してプロペラを回す。すると気球は前へ進んでいく。
成功だ。速度はやっぱり遅いけど動けるだけマシ。ただ、問題もある。
「うう、やっぱり上空は寒いし空気も薄い。厚着してドリスにカイロをもらってて正解だったな。リンダ、高度はこのままで……て寒くないんかい!?」
「あいよ。親父ほどじゃないけど、薄着でも平気だわさ」
どうやらオークは寒さに強いらしい。
俺達は一時間ほど遊覧飛行を楽しみ、元の場所に着陸した。
俺は二人に礼を言って、ゴンドラから降りる。
「リンダ、ハイドラ、サンキュー。いやー楽しかった。さて、次に乗る人と交代せんと……ん? 弐号機が遅いな、トラブルでも起きたか?」
実は気球は三機ある。今回は
くっくくくく、気球量産の暁には魔物なぞあっと言う間に叩いてみせる!
乗せる兵器も考えてある。空からの攻撃は防げまい。いまのとこは偵察用。
俺は雅が乗ってる弐号機に近づいてみる……。
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