第177話 パーソナリティをやるしかない
「私達もコッチに住むことにしたから」
「たまには家に帰ってやれよ。アランさんが心配するぞ」
「必要ないわん。どうせパパ達も来るわん」
「……そうか」
これからはアルテミス湖が交易の中心になるから、族長も含めみんながやってくるのだ。
男女別に宿舎が作られて、仕事に精を出している。
俺も
湖開発の勢いとスピードは凄い。一か月も過ぎると、周辺は一変した。
俺はドワーフ村の変貌を思い出す。材料と機械の進歩は目覚ましい。
蒸気重機が建設を押し進め、ダンプカーと貨物船がひっきりなしに湖を行き来していた。
ヘスペリスの人間と亜人はとにかく勤勉で、これは日本人やドイツ人に匹敵する。
義務だけでなく、仕事が楽しいのだろう。
ゼネコンのように中抜きする悪徳業者はおらず、平等に賃金が支払われていた。
まあ、ほとんど酒と食事に消えてるようだが……。
……そして俺は、防災無線の試験を頼まれる。
「GLHA、GLHA、こちらはヘスペリスラジオ。AM放送は1192khz、出力1kwでお送りします。メインパーソナリティの海彦です」
「アシスタントのロリエです」
「「どうぞ、よろしくお願いします」」
「ヘスペリス初めてのラジオ放送なので、緊張しておりますが、皆さんに役立つ情報をお届けして参りたいと思います。まずはロリエちゃんの、天気予……占いから」
「はい。明日から一週間、
ようはラジオ放送である。無線機と電話は増えてるものの、全家庭にあるわけではない。
そこで各村にラジオを作って配り、色んな情報を発信することにしたのだ。
これも魔物に備えてのことだった。
今頃は、みんなが聞いてくれてるだろう。ちゃんと声は届いてるかな?
「はいロリエちゃん、お疲れ様でした。続きまして、ゲストによる告知コーナーです。思いの丈を叫んでいただきましょう。まずはお一人目、アブラハムさん、どうぞ!」
「サラ! 俺と結婚してくれぇー! 君を幸せにしてみせるー!」
いきなりの公開プロポーズで俺は驚く。ここは応援すべきだな。
「いい声でしたねー、きっとサラさんに思いは届いてると思います。続きまして二人目のハリソンさん、どうぞ」
「メアリー! 俺が悪かったー! 家に帰ってきてくれー!」
「おかあちゃーん! うわーん!」
俺は絶句し、ロリエが泣いてる子をあやしていた。
どうやら夫婦喧嘩をしたらしい。犬も食わない物には、関わらないことにする。
こうしてゲスト達の絶叫は終わった。
「残念ながら放送時間も残りわずかとなりました。あっという間でしたねロリエちゃん」
「ええ、海彦お兄ちゃん。楽しかったです」
「リスナーの皆様ありがとうございました。それでは、最後に音楽を…………!?」
「歌を歌わせてくれえー!」
放送室に乱入者が現れる。
ラジオを聞いてるだけでは、我慢できなくなった者達が、押し寄せてきていた。
自分の声を聞いてもらいたくて、仕方ないのだろう。その気持ちは分かる。
俺はこのまま帰すのが可哀想になり、放送時間を延長してしまう……それは間違いだった。
伴奏なしでも、みんな歌は上手い。
某のど自慢の最初は、「りんごの唄」しか歌われず、審査員はうんざりしたそうだ。
ヘスペリスでは色んな歌を伝えてるので、そんな心配はない。
かなりの時間が過ぎたので、放送を終わらせようとした所、
「俺の歌を聞けー!」
エレキギターとアンプを、持ち込んできた野郎がいた。
様々な楽器が作られるようになり、ないのはシンセサイザーだけ。
熱い野郎はギターをかき鳴らして、自分に酔いしれている。
ちっ、いい音させやがる。けどな……
「やかましいわ!」
流石に俺もキレて、放送を終了させる。
「ラジオに出たーい!」
ラジオの反響は大きかった。雑な企画でも受けは良く、誰もが感動し衝撃を受けたようだ。
そんでもって、出演希望者が殺到する。目立てば村で話題になるから、自慢できる。
結局、俺はパーソナリティをしばらくやることになる。一回切りのはずだったのに。
冠番組を持った覚えはないんだが……。
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