第178話 やせたい、ダイエットしたい

「お兄ちゃん! これはひどいの!」


「海彦様、お恨みしますー!」


「俺が作ったわけじゃねー!」


 俺は女達の恨みを買っていた。伝えた知識の副産物のせいである……。



 収穫の秋、各地で取れた食い物が運ばれて売買される。もしくは物々交換だ。


 品物の種類が増えたので、通常金貨の他に大金貨と小金貨が発行される。


 また大型の取り引きには為替手形かわせてがたが、使われるようになった。


 経済が発展するのは良いと思う。問題はここからだ。


 取り引きの際に使われるのは、はかり。重さで物の値段を決めるためだ。


 天秤てんびん棒秤ぼうばかりに代わって、バネ秤が標準となると、色んなもの・・・・・が計れてしまう。


 ……それは、人が望むものとは限らない。



 体重計――乙女の敵。

 


 避けては通れない戦いが、毎日続く。これをめることはできない。


 ある者はスッポンポンで無駄毛を剃って乗り、またある者は片足を外に出して台に乗る。


 なんの効果もないが、女性達は無駄と知っても必死にあがく。


「きゃあああああ!」


 そして自身の重さを知ると、絶叫してショックを受ける。


 体重計を疑うが現実は無情で、つかめるぜい肉は消えたりはしない。


 食欲の秋の悲劇であった……。



 アルザスや各村で健康診断が行われる。


 地球のBMIや適正体重は、ヘスペリスには合わない基準なので、部族ごとに平均体重が調べられた。


 身長がほぼ同じで平均を上回れば、太っている・・・・・ということになる。


 男達全員の体重は公開されたものの、女性の体重はトップシークレット扱いにされた。


 興味本位で知ろうとしたある王様は、娘から半殺しにされたらしい。


 くわばら、くわばら。



「オークは元々体がでかいからね。体重なんて気にしないだわさ。ふん! ふん!」


 と言いつつ自作のダンベルで、体を鍛えているリンダがいた。


 そんでもって俺の所に、わんさかと女性陣が押し寄せてくる。


 恨まれていたのだが、もうそれどころではない。


「だいえっと方法を教えてくださーい!」


「……はい、でも無理はしないように。リバウンドしますから」


 こうして運動の秋へと変わる。


 乙女達は、真面目に働きスポーツをするのだが、その成果はかんばしくない。


「アイスおいしいー! ……はっ!」


 それ以前にお前ら、食いすぎじゃー! ダイエットの意味がねー!


 美味い食べ物の前に、やせる決意は無力であった。



 話は変わるが、聖獣リーフはどうしてるかと言うと、体はすっかり大きくなって、今は湖に住んでいる。


 体長が五メートルにもなったので、船にはもう乗れない。乗せられない。


 餌はと言うと、毎日誰かが与えてくれている。主に見物にやってくる子供達だ。


 もうアルテミス湖の名物で、誰からも可愛がられていた。


「キュー、キュー♪」


 たくさんエサをもらえてよかったなー、リーフ。


 いい恰幅かっぷくになった…………分かった、現実を見よう。


 お前! 首長竜じゃなくて、デブ竜だー!


 ちなみに満腹になったあとは、砂浜で腹を出して昼寝をしており、その上にはこれまた太ったヨーゼフとパトラッシュが寝ていた。


 見てるだけならほっこりするが、お腹はポッコリしてるデブ三兄弟である。

 これはアカン。



「おりゃー、走るのじゃー! 働かないと飯抜きなのじゃー!」


「ハフ……ハフ……」


 俺とドリスは、三匹を痩せさせることにする。これも飼い主の責任だ。


 ヨーゼフとパトラッシュを、他のデブ犬達と一緒につないで、荷車を引っ張らせる。


 犬ぞりならぬ、犬車。


 食い物が良くなったせいで、ペット達の肥満率は上がり、飼い主達は頭を悩ませていたのだ。


 そこで協力して、散歩などの運動をさせることにしたのだ。もちろん無理はさせない。


 俺も、リーフに小舟を引っ張らせて運動をさせる。資材の運搬作業だ。


 首には、「エサを与えないでください」と書いた看板を下げさせる。


 これからはカロリー計算をして、ちゃんとエサを与えることにした。


「もうすぐ収穫祭だな……」


 季節が変わろうとしていた。二度目の冬は近い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る