第176話 俺は中二病じゃない!

 アマラも足が速かったので、獣人は皆そうなのだろう。

 あの足があれば、魔物からは逃げられる。


 外の様子が気になったので、砦のやぐらに雅と一緒に登って、見てみることにした。


 砦の中でジッとしてるのは辛いものがある。気晴らしだ。


「あっ! 兎族が一杯いる」


「どうやらピーター様は、ご家族と会えたようですわね」


 隠れていた人達を、騎士達が保護して連れてきたようだ。


 ピーターさんは抱き合って、うれし涙を流している。雅はもらい泣き。


 良かった、良かった。俺も再会したら、そうなるのだろうか……?



 日が落ちて探索は終了、湖のそばで野営することになる。


 周囲には柵が作られ、かがり火が焚かれる。夜間の警戒も怠らない。


 砦の中には陣幕が張られて、本陣となった。


 ヘスペリスにはなかったが、戦国時代の物を参考にして作られた。もともとは風よけ。


 鳥を基調としたアルザスの紋章クレストは格好がよく、気分も引き締まる。


 王族を守る親衛隊にも気合いが入っていた。


 そして軍議が開かれる。まあ、いつもの会議です。


「王よ、この地域の霧の動きは不安定なようで、あまり長くいるのは危険です。目的は達成しましたので、アルザスに凱旋がいせんすべきかと」


「そうじゃな、結界がせめぎ合ってるのかもしれん。海彦殿はどうじゃ?」


「アンドレさんの言うとおり、もう引き上げましょう。あとココに見張り台を建てませんか? 魔物の動向を、いち早く知るのに役立つと思います。湖のそばに作っておいて、危なくなったら逃げればいい」


「うむ、そうしよう。ピーター殿もそれでよいか?」


「はい、もうアルテミス湖の北側には住めませんので、これから開発される南側に移住したいと思います。皆さんのご協力とご支援をお願いします」


「もちろんじゃ。一緒にやろう!」


 ピーターさんは頭を下げて感謝していた。もう兎族の代表なのだ。


 会議は終わり、明日帰ることになる。


 こうして北西の岸辺には、灯台もかねた見張り台が作られることになった。


 木造ではなく、石づくりで頑丈である。まず魔物でも壊せないだろう。


 これなら夜間でも、湖を安全に航海できる。


 近くには基地が作られ、兵士達が交代で灯台守と見張りをすることになる。



 エリックさんとアルザス騎士団は、セレネ湖に戻り凱旋がいせんした。


 俺やピーターさんは、職人達とアルテミス湖に残って、開拓を始めることになる。


 いやー楽しい。俺は久々に体を動かして汗を流す。肉体労働は気分がいい。


 やや不便ではあるが、キャンプ生活も楽しかった。


 あと久々に女達から解放されて、清々すがすがしい気分……一週間しか満喫できませんでした。しくしく。


 アルテミス湖の水路を通って、続々と亜人達が手伝いにやってきたのだ。


 神怪魚退治に参加できなかった者達が、活躍の場を求めていた。


 旅行もして見たかったようで、やる気も能力も十分にある。


 俺の出番はなくなり、またもやエセ教師をすることになる。例によって百科事典の翻訳だ。


 現代での街作りと、城郭じょうかくの作り方を教えて、参考にしてもらう。


 魔物の大軍に備えるためだ。



 そんでもってフローラ達が、クルーザーでやってくる。お早いお帰りで……。


 港に海神丸が近づいて…………ちょっと待てい!


「何で船に俺の顔が描かれてるんだー!? 痛船いたぶねはやめれええええー!」


 無駄に上手くて、俺は頭を抱える。


 ヘスペリスに肖像権しょうぞうけんはなく、ひどいロゴも書かれてた。


〝俺の右目が光って唸る! 魔物を倒せと輝き叫ぶ!〟


 という、あおり文句だ。俺は中二病じゃねー!


 リンダに整備と塗装は頼んだが、これはハイドラあたりの仕業に違いない。


 紙と塗料が発展して、それなりに絵も描かれるようになった。


 どこにでも上手い奴はいるもので、画法を覚え道具がそろえばプロ絵師となる。


 ちなみに俺に絵心はない。



 いまさら直せといっても、もう無理である。精魂込めた絵を消せとは言えない。


 これは芸術なので、俺はあきらめるしかなかった。


 船の絵を一目見ようと、ぞろぞろと港に人が集まってくる。


「すげえー!」 


 これは大うけし、他の絵師は負けん気を出して、荷車や蒸気自動車にも色んなデザインがされるようなってしまった。


 ああ、またオタク文化が広まってしまう……。

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