第175話 戦国武将にリスペクトしたい

「アンギャアアアアアアアアー!」


 ゴブリン集団が放つ大声は、アルテミス湖全体にとどろく。


 仲間を殺されて、かなり怒り狂ってるようだ。


 さらに騎士達からは挑発され、脇目も振らずに追いかけてきている。


 バカめ、思うつぼじゃー! 誘い出されたことには気づいていない。


 これぞ、島津義久公の「釣り野伏せ」。


 何を隠そうアンドレさんに相談されて、俺は作戦を提案していた。


 パクリ軍師と呼んでくれてかまわない。


 兵法を生み出した武将達に、俺は尊敬リスペクトしている。


「うーむ、日本人は昔から凄いな。その策でいこう」 


 聞いたアンドレさんは、大きくうなずいて感心してくれた。

 作戦は上手くいったと言えよう。


 ……ただミシェルの件で、威圧するのは止めてくれ。俺は手を出す気はありません。



 アンドレさんと騎兵が、砦の横を過ぎると、


『よーし、撃てえ――――!』


 エリックさんが、メガホンで大声を張り上げる。すぐ隣の俺は耳を塞ぐ。


 拡声器なしでも、兵達に声は届いてるだろう。


 見てるだけでは我慢できず、大声を出してストレスを発散したようだ。


 雅も興奮しながら、一緒に叫んでいる。


『矢をありったけ撃ちなさい! 皆殺しよ! 一匹たりとも逃がすな――――!』


 いつもとは違い、かなり過激である……女マジKOEEEEー!


 焼き討ちされた村の件で、そうとう怒っていたようだ。


 王女の声に兵達は発憤する。


 正面の砦と船から大量の矢が飛んで、ゴブリンどもに突き刺さった。


「ホゲエー!」


 十字砲火からは逃げようもなく、何をされたかわからないうちに死ぬ。


 バタバタと仲間が倒れる中、なんとか砦にたどり着いたゴブリンもいたが、油で手が滑って壁は登れない。


 モタモタしてる間に、やぐらから撃たれて倒される。


 火矢を警戒していたが、魔法を使ってくるゴブリンもいなかった。


 増援が来る様子はなく、戦いの勝負はついた。


 生き残った奴らは逃げだし、掃討戦が始まる。



「撃ち方止めー! 突撃――――!」


「うおおおおおおー!」


 砦の後方で休んでいた、重騎兵が再び動き出す。やはり機動力はすごい。


 あっと言う間にゴブリンに追いついて、背中をランスで突き刺す。


 騎馬は突進して、ゴブリンを吹っ飛ばし踏み潰していく。


 馬は臆病なのだそうだが、アルザスで調教された軍馬は恐れをしらない……ただ気が荒いのが難点。

 ……なんだか、チンピラのようにガラが悪いんですよ。


 うかつに近寄ると、ガンをつけられ噛みついてくるので、触らないように。


 その馬を乗りこなす騎士達は、大したものである。


「斬!」


 中でもアンドレさんは圧巻だった。日本刀を武器にして、両手で振り回している。


 間合いに入ったが最後、ゴブリンは角切りステーキにされる。まあ、食えないけどね。


 強さは人間離れしてるといっていい。やはり元勇者である。


 こうしてゴブリンどもは駆逐された。もう立っている者はいない。



 安全になったところで、俺達も上陸した。


 ただ騎士団は休めない。そのまま近辺の探索が始まる。


「残敵に注意しろ。霧には絶対に近づくな!」

「ヤー!」


 アンドレさんは騎士達にくどいくらい、同じ事を注意していた。


 長い間アルザスに戻ってこられなくて、エラい目にあったから経験者は語る。


 聞いたところでは、魔物がいる霧の向こう側には簡単に行けるが、湖のあるコッチ側には行けないようになってるらしい。


 入ると迷路を彷徨さまよい、戻されてしまうそうだ。


 恐らく女神の結界は、魔物避けなのだろう。人間と亜人を守ってくれてる壁だ。


 たまに結界がゆるんだ時に、魔物は進入してくる。


 俺達は砦の中に軟禁されてしまった。


 ひどい扱いだが、王様と王女は目を離すとフラフラと出歩いてしまうので、監視……いや護衛をせねばならなかった。


 ミシェルと親衛隊は、目を光らせ片時も離れようとはしない。


 そんな中、ピーターさんが呼ばれて、慌てて走っていった。


 足はえー!

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