第169話 父親との再会


「俺に触るな、近寄るな! あー何で俺がこんな目にあわなくちゃいけないんだー!」


 大声で泣きわめいて、手がつけられない。


 持っていたむしろを被って、船首にしゃがみ込んで震えていた。


 せめて水だけでも渡そうとするが、フローラに止められた。


 首を振って何も言わず、リンダとロリエも構わないようにと、目で伝えてきた。


 もしかして知っている人なのか? あっ! そうか……たぶん彼は俺の先輩パイセンだ。


 ――逃げた勇者。


 確か、十年くらい前に喚ばれたんじゃなかったかな?


 いきなりヘスペリスに召喚されて、「神怪魚ダゴンと戦え」などと言われたら、そりゃー逃げたくもなるわな。


 気持ちは分かる。チートもなしではやっとられん! 俺だって逃げたかったわ!


 ここはしばらく、そっとしておくことにする。下手に声をかけるのは止めておく。


 落ち着いたら握り飯でも側におこう。

 


 そして最後の一人は、


「父上――――――――!」


「ミシェル!? ミシェルなのかー!?」


 長身でアッシュブロンド髪のダンディに、ミシェルが抱きついていた。


 親父さんだったのか? どおりで様子がおかしかったわけだ。

 そりゃー、平静ではいられないわな。


「あんなに小さかったのに、大きくなったなー……すまなかったミシェル。王国にでたゴブリンどもを追っているうちに、霧の結界に入ってしまい、コッチに戻れなくなった。母さんは元気か?」


「は、はい……うわ――――ん!」


 生き別れてから何年経ったのだろう。ミシェルは父親の胸でうれし泣きしている。


 探すと約束してたから、見つかって本当に良かった。


 こっちも、そっとしておくべきである。親子の再会に水を差すのは無粋ぶすい


 みんなも空気を読んで客室に引っ込んでいた。


 俺も操縦室に入ろうとしたところ、呼び止められて引き返す。


 やはり女でも騎士で雅の親衛隊隊長。立ち直りも早い。


 泣いてスッキリしたようで、晴れ晴れとした笑顔になっていた。


 その反面、ミシェルの親父さんの顔は険しい……なんでだ? あー、なんか嫌な予感が……


「海彦、改めて紹介しよう。私の父だ」


「地球……いえ日本人の幸坂海彦です」


「……ほう、どうやら私は日本人に縁があるようだな。ミシェルの父、アンドレだ。娘が世話になったようだな、礼を言う」


 俺とアンドレさんは握手をする……いてえー!


 思い切り握ってきやがった。手が潰れるかと思ったぜ。これは敵意丸出しである。


「……ところで海彦君。娘に不埒ふらちなことをしたと聞いたが本当か? 貴様、命がいらないらしいな!」


「何を言った、ミシェルー! まずはお父さん、落ち着いてください!」


「誰が、お養父さんだああああああああああ!」


 アンドレさんは怒り顔で俺に詰め寄ってくる。


 フローラといい、ミシェルの時といい、俺は初対面の人に、いがまれる呪いでもかけられているのか?


 どうせ、ミシェルがあることないことを、父親に吹き込んだのだろう。


 それか話の一部だけを切り取って、わざと誤解させるような言い方をしたに違いない。


 何をしたいのか、女はわけがわからん!


 このままではアンドレさんに殺されてしまうので、俺が人畜無害じんちくむがいであると分かってもらうしかなかった。


「五女神に誓って、ミシェルにいかがわしいことはしてません。他の仲間に聞いてもらえれば分かると思います。俺はもうすぐ日本に帰るので、誰にも手をだしてませんよ!」


「貴様ー! うちのミシェルが気に入らないと言うのかー!」


 どっちなんだー!


 娘に手を出して欲しいのか? 手をだしたらダメなのか?


 どうやら面倒くさい人のようだ。俺が困ってると、



「将軍、お久しぶりです。ご無事でなにより」


「こ、これは雅様! お美しくなられましたな」


 アンドレさんは片膝をついて、雅の手をとった。


 これが臣下の礼というやつだろう。おれにとっては助け船。


 雅が誤解を解いてくれるだろうと思っていたら……


「なんですとー! この野郎――いやこの男が雅様の婚約シャー! ですとー!? しかも妾が一杯!? 貴様ー、何股かけてるんだー!」


「かけてね――――――――!」


 余計にややこしくされ、俺は頭を抱えるしかない。


 雅とミシェルは笑っているので、わざとやってるのが見え見えだ。


 俺の味方はいないらしい。誰かに期待したのが間違いだった。


 そこに……


 ピッピッ、ピー! ピー! ピー!


 聞こえてきた音に俺は慌てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る