第168話 体調を気遣いたい

「先にモーターボートを出して援護するぞ! ハイドラ、フローラ頼む!」


「ええ!」


「わかったわん!」


「あ、そうだ! アマラ、シレーヌ……をやってくれ」


「わかったのだ!」


「流石は海彦さんです!」


 とっさに策を思いつき、二人にやってもらうことにする。


 もちろん元ネタはあり、ある武将の戦法を使うのだ。



 モーターボート二艘が、ゴブリン船団へと近づいていく。


 一艘にはフローラとハイドラが乗っており、精霊魔法がギリギリ届くところで止まった。


「いでよ湖精霊、ナイアスの守り!」


 これは自分達を守るためではなく、帆掛け船にいる連中を守るための魔法だ。


 フローラ達には俺達が着くまでの、時間稼ぎを頼んでいた。


「おおっ! これは助かる」


 盾精霊が矢を防ぐと、騎士はこっちに気づいてお礼に剣を振っていた。


 しかし守るだけでは足りない。追いつかれたら終わりだ。


 そこで俺はゴブリンを攻撃する部隊を出していた。



 ただ、もう一艘には親衛隊員が一人乗っているだけで何もしてはいない。

 彼女には、あるものを運んでもらった。


 いつの間にか大樽が湖に浮かび、横からゴブリンの船に近づいていた。


 奴らは帆掛け船だけを見ており、これにまったく気づかない。アホが!


「死ねなのだー!」


「ンギャアアアアアアー!」


 樽の中からアマラが飛び出し、ゴブリンに襲いかかる!


 一撃必殺――かぎ爪が振るわれると、体を切り裂かれて絶命する。


 アマラは一匹だけを仕留めると、次の船へとすぐに飛び移り、オールを持っているゴブリンを狙って殺していった。


 他のゴブリン達はアマラの速さについていけず、同士討ちを恐れて矢を撃てない。


 これは源義経公が、壇ノ浦の戦いで使った「八艘飛び」。


 漕ぎ手を潰して、船を動けなくする戦法だ。魔物相手に情けは無用。


 怒れるアマラは強かった。さらに、


「えーい! ですのー!」


 アマラが暴れている隙に、シレーヌは泳いで小舟のオールを奪っていた。


 もうこれで漕ぐことはできなくなり、ゴブリンどもの船は完全に動かなくなる。


「アマラ、もういいぞー! 下がってくれ」


「分かったのだー!」


「……よーし、みんな撃てえ――――!」


「くらいな!」


 アマラが樽に入り込むのを見てから、俺は射撃の指示を出す。


 クルーザーは到着し、ボウ銃の射程内にゴブリンどもは入っていた。


 奴らの矢はコッチに届かないので、これぞ鴨撃かもうち。


 小型ボウ銃の性能と威力は上がっているし、みんな練習は欠かさないので、遠くの的だろうがまず外さない。


 たくさんの矢が、ゴブリンに突き刺さる。


「アングエエエエエー!」


 ゴブリンどもは、断末魔の悲鳴を上げて船から落ちる。奴らの血で湖が赤く染まった。


 女神様、汚してすみません。一応心の中で謝っておく。


 戦いの決着はあっという間だった。ゴブリンがいなくなると歓声が上がる。



「やったわ!」

「ザマーみろ! 奈落に落ちろ!」


「海彦様、いつもながらお見事な策です!」


「これも先人のおかげですよ、雅さん。俺の知恵じゃない。それに、アマラやみんながいなくちゃ、上手くは戦えなか……どうした、ミシェル?」


 ミシェルは俺の問いかけに反応せず、ぼーっとしたまま帆掛け船を見ていた。


 心ここにあらずで、なにか気になることでもあるのか?


 おっと、それよりも早く救助をせんとあかん!


 ボロ船が沈みかかっていた。やはり作りが甘かったようである。


 俺はクルーザーを慌てずに近づけていき、船側に縄ばしごをおろして、登ってもらう……必要はなかった。


 リンダが両手を掴んで、甲板に軽々と引き上げていた。


 乗っていたのは男三人。


 一人目はラビット族で、その名の通り頭にうさ耳がある。


 あとで聞いてみたところ、獣人の一種らしい。


「助けてくれて、ありがとう」 


「ああ、まずは休んでくれ。事情は後で聞く」


 俺は水筒を手渡す。ライフセイバーの癖で、どうしても救護者の体調を気にしてしまう。


 特に脱水症は危険で命にかかわるからだ。あとでロリエに全員診てもらおう。


 二人目は人間だったのだが……。

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