第167話 ゴブリンから助けたい

「くらいな!」


 桟橋さんばし近くまで戻ってくると、船に残っていた仲間達が援護射撃をしてくれた。

 俺達の後方に矢が飛んでいく。


「ギャー!」


 ボウ銃の矢は見事に命中、ゴブリンは悲鳴を上げた。

 鎧を軽く貫かれて驚いてもいる。


 ボウ銃の威力にビビり、追いかける足の動きが止まった。


 この隙に俺達はクルーザーに急いで乗り込む。


「出してくれ!」


「はい、お兄ちゃん!」


「飛ばすよ!」


 プリプリ号が先に出発し、クルーザーはエンジン全開で後に続く。


 舵はロリエが握ってくれていた。


 陸地から離れていくと矢は届かなくなり、ゴブリンどもはわめいていた。


「アギャ、アギャ! アンギャー!」


 俺達を取り逃がして悔しいのだろうが、戻ってやるつもりはない。


 あっかんべー!


 鎧をつけてるので泳いでは追ってこれまい。クルーザーについてこれるわけもない。

 これでようやく一息つける。


「ふー……危なかった。みんなサンキュー。かなりの数がいたぞ、ありゃーヤバい!」


「まるで軍隊のようだったわね。一糸乱れずにコッチを攻撃してきたわ」


「何も出来なくて、悔しいのだ!」


 村で殺された者の仇を討ちたかったアマラは悔しがっているが、ゴブリンから逃げられただけでも、めっけもの。


 女達がいくら強くても、あの大人数で囲まれたら勝てない。


 俺はアマラを慰める。


「なーに、アタワルパさんと族長達、そしてエリックさんと王国騎士団を呼んでくれば、ゴブリンどもは倒せるだろう。ここで退くのは恥じゃない」


「うんうん」


「そうですわね、海彦様。このまま東の水路を使って、すぐにアルザス王国に戻りましょう。すぐに父にお願いします」


「ああ、そうしよう」


 雅の顔は険しい。普段は笑顔を絶やさないので、よほど腹にえかねたようだ。


 静かに怒りを燃やしているようで、アルザス騎士団全軍を差し向け、ゴブリンを根絶やしにせねば収まるまい。


 襲われた村のことを詳しく話すと、全員が怒った。みんな気持ちは同じである。


 ゴブリンをののしり報復を誓う中、フローラが最初に気づく。


「あっ! 海彦あれ!」


「ちいぃ! そう簡単には行かせてもらえないようだな!」


 遠くの方に数艘すうそうの小舟が見えた。


 ゴブリンは乗っているが、さっきの奴らとは別の集団のようだ。


 これでは何匹いるかわかったもんじゃない。


 ゴブリンはオールを漕いで小舟を進ませていて、そこそこ早い。


 俺達に向かって……こない。なんで!?


「ん? あれは帆掛け船? あれを追っているのか?」


「助けましょう海彦!」


「ああ!」


 霧を抜けて湖の北側から現れたのは、一艘の帆掛け船で、ゴブリンの小舟に追いかけられていた。


 俺達からは少し離れた場所にいるので、双眼鏡で見て見ると……。


 帆掛け船の状態はひどいものだった。アマラがいかだで、アルザスに来た時と変わらない。


 船体は木ではなくよしを束ねて作られてるが、すでにボロボロ。


 張ってある帆も、わらで作られたむしろで、形が悪く大きさもない。


 沈まないで進んでいるのが不思議なくらいだ。


 乗っているのは三人。


 一人が風精霊シルフで帆に風を送っているようだ。


 一人はしゃがみ込み、顔を伏せたまま震えている。


 残る一人は鎧を着た騎士で、見ていて凄かった。


「どりゃあああああああー!」


 奇声を上げながらゴブリンが放つ矢を、次々と剣で切り落としていた。


 剣閃けんせんの光が乱舞してまぶしい。


 二刀流。


 不安定なボロ船で、剣を両手で振り回しているのだから凄い達人だ。


 とはいえ防戦一方では苦しい。いずれ力つきるだろう。


 帆掛け船は遅く、ゴブリンの小舟の方が速い。もうすぐ追いつかれそうだった。


 俺はクルーザーを急がせる。間に合えー!

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