第166話 祈りをささげたい

「俺とフローラとアマラと……」


「私も行きます、海彦様」


「……わかった雅さん。そうすると、あとはミシェルだな。悪いが他のみんなは、船を見張っててくれ。そんなに遠くにはいかない」


「わかったわん」


 この先に何があるか分からないし、どこで襲われるかも分からないので、守りの魔法が使える二人がいれば安心だ。


 アマラとミシェルも護衛として頼りになる。まず負けることはないだろう。


 俺としては異界人エトランゼの手がかりを、少しでも見つけたいところだ。

 話せる亜人が一人でもいれば良いが……。



 俺達五人はゆっくりと歩きだす。


 ときどき立ち止まって双眼鏡をのぞいてみるが、


「……なーんにも見えん。みんな、はぐれないでくれよ」


「はい、海彦様」


「近くは霧だらけだからね」


 とにかく視界が悪すぎる。遠くの景色は全く見えない。


 結界に踏み込まないように、俺達は慎重に進むしかなかった。


 下手に入り込めば戻ってこられなくなるので、恐ろしい……これはオカルトだな。


「ワン、ワン!」


 そんな中、先導してくれてるのは犬のヨーゼフとパトラッシュ。


 ドリスが命令したわけではなく、犬二匹は勝手についてきた。おかげで助かっている。


 鋭い嗅覚きゅうかくは探索の役に立つし、かなり強いのでボディガードとしても頼りになるから、追い返したりはしない。


 ただ……俺を噛むなよ、噛むなよ! ぜっーたい噛むなよ!!


 受け狙いのお笑い芸人ではないので、マジで言い含める。



 犬達の後をついて行くと、村……だった跡地に着く。


 惨状さんじょうを見た俺達は顔をしかめる。


「これはひどいな……」


「襲われたのは最近のようね」


「……悲しいです」


 焼き討ちと虐殺……。


 黒く焼け焦げた家がたくさんあり、炭になった柱が何本か残されていた。


 朽ち果て崩れてはいないので、そう時間は経ってないようだ。


 あと、残されていたのはいくつかの死骸。そして襲撃者が使った武器である。


「この短剣と矢は、ゴブリンがよく使うものだ」


「そうか、この村を襲ったのはゴブリンの群れか」


 調べていたミシェルがうなずく。


 ドワーフ村で戦ったからわかるが、ゴブリンの武器は貧弱でも、数で押してくるから苦戦するのだ。


 それと多少の怪我をしても、ひるまずに向かってくるから厄介だ。

 やはり魔物は手強い。


「弔ってやりたいとこだが、ココは危険過ぎる。もうクルーザーに戻ろう」


「はい海彦様。せめてお祈りだけさせてください」


「ああ……」


 司祭のみやびは手を合わせ、祈りの言葉を口にしていた。


 フローラとミシェルは黙祷をささげている。


 アマラは手を合わせ、怒りに震えているようだった。


 犠牲者の中に子供がいたからである。これは許せるものではない!


 家の軒数から計算すると、村民の大半は逃げたようで、それだけが救いである。


 無事に逃げ切ってくれてれば良いが……。



 本当なら穴を掘って埋葬まいそうしてやりたいが、今は無理だ。


 俺は心の中で謝りつつ、足早に村落をあとにする。


 村を襲ったゴブリンが、戻ってくるかもしれないので急いでいた。


 クルーザーが見えてくると――


「えっ!」


「やばい! 船に走れ!」


「はい!」


 白い霧が動いた。近寄ってきたのではなく、海の時と同じくだんだん薄くなっていく。


 またもや結界が破られたのか!?


 これは良くない兆候で、いきなり周辺から鳴き声が聞こえてくる。


 不快で聞きたくもない声だ。


「ギャギャ! ギャギャー!」


 でやがったなゴブリンども!


 しかもドワーフ村で見たのとは違い、鎧兜よろいかぶとに身を固め、革靴も履いていた。


 装備もよく弓矢を持っており、有無を言わさず俺達に向けて放ってくる!


「ナイアスの守り!」


 すぐにフローラが盾精霊を召喚して矢を防ぐ。この間に俺達は一目散に逃げだした。


 ここで戦う気はない。少し走ってチラリと振り返って見ると、


「何て数だ!」


 あっと言う間に奴らは、百匹を超えていた。


 ゾンビ映画よろしく、わらわら集まり俺達を追いかけてきている。

 足もそこそこ速い。


 俺はチビリそうになる。はっきり言って恐いですー!

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