第165話 湖を探索したい

「取りあえず、岸沿いに船を動かして測量はしておこう。湖図を作っておけば、あとで役に立つし」


「ええ、海彦様」


 クルーザーにはレーザー距離測定器があるので、動くだけで大まかな地図は作ってくれる。

 ただし精度は悪く、細かい地形は雑になる。


 俺らは先遣調査隊のようなものだから、本格的な測量は族長達に頼むことにしよう。


 携帯の測定器は雅に貸して、プリプリ号でも測量をしてもらうことにした。


 俺が東側で、雅が西側だ。こうして一日が終わった。



 夕食のあとで、クルーザーのサロンにみんなが集まる。今日の報告会だ。


 俺はテーブルの上に、プリンタで印刷したアルテミス湖の湖図をおいた。


 ざっと見て見ると湖の全体とはいかないが、半分ほどの地形はこれで分かり、かなりの面積がある。


 調べたとこだけでもニュクス湖の倍以上はあり、アマラは悔しがっていた。


 生まれた地元が一番なので、負けたくない気持ちも分かる。


 これで結界に隠れてる部分も合わせたら、相当の広さがあるだろう。


 アルテミス湖はヘスペリス最大の湖である。あと俺達はあるものを見つけていた。


「北東に一本、東に一本、南に一本の水路。そして私達が通ってきた水路が、南西にあって計四本の水路があるわ」


「つまり、アルテミス湖は全部の湖とつながっているわけね?」


「間違いないのじゃ!」


「いわば五湖の中心ですね。ここを利用すれば村々に早く着けるでしょう」


「なのだ!」


 ヘカテー湖からテミス湖までは、一本の水路を通ってきたが、これからはアルテミス湖を通ることになるだろう。


 いわゆる近道ショートカットだ。



 ここが拠点きょてんになれば、物流は盛んになるだろう。


 重苦しかった雰囲気が少し明るくなる。


 将来のことを考えると、みんな笑顔になっていた。


「これなら南国フルーツも貝も、村に早く届くわねん!」


「だわさ! 村に帰ったら高速貨物船を作るわ! 蒸気エンジンを二つつける!」


「賛成なのじゃ! 妾も手伝うぞリンダ!」


「やっぱりそれかい!」


 あー君たち、父親達と同じことを言ってるぞ。やっぱり親子だな……。


 ビールと同じく女達にとって、南国フルーツはなくてはならない物になった。


 もう、やみつきなのだろう。


 日本のように近くにコンビニやスーパーマーケットがない以上、どうしても欲しいならば自分で取ってくるしかない。


 山に囲まれた地域の人は海産物を多く求め、逆に海の近くに住んでいた俺は、山や畑の物を求めたものだ。


 人は不思議なもので、持ってない物ほど欲しくなる傾向があるらしい。


 たくさんあると見向きもしなくなる。毎日、魚ばかり食ってると飽きます。


 そうして余った物を交換するからこそ、経済は成り立つ。


「まあいいや、それよりも……」


「ええ海彦様。北西付近に住居らしき物が見えました。人の姿はありません。ただ遠くから見たので、はっきりとは分かりませんでした」


「なるほど、でも近寄らなくて正解だ雅さん。霧が近くにあるようだし、明日の調査は慎重にやろう」

「はい」


 会議はこれにて終了。夜更かしせずに、今夜は早めに寝ることにする。


 寝る前に無線で異界人に呼びかけてみたが、やはり応答はなかった。


「……もう無理だな」


 俺はあきらめモードになっている。



 次の日、朝食を食ったあとに俺達は動き出す。


「みんな、武器は持ったか?」


「ええ」


「いつでも来いなのだ!」


 アマラはかぎ爪をぶつけて刃を鳴らす。やる気は満々のようだ。


 ロリエの占いで、今日は良くないことが起きるらしい。


 なので全員に武器を持ってもらい、雅の親衛隊は弓矢を構え、眼光鋭く辺りを警戒していた。


 曇り空の下、二隻の船は北西へと進んでいく。


 ……やはりアルテミス湖はおかしい。


 ここの湖も綺麗で魚はいるのだが、獣の遠吠えは聞こえず、鳥のさえずりさえ聞こえてこないのだ。


 密林ジャングルで常にやかましかった、ニュクス湖がなつかしい。


 不気味な静けさがあり、船の蒸気エンジン音だけがやたら響いてうるさかった。


 張り詰めた緊張感の中、俺達は目的地に着く。船を停める場所にはさほど困らない。


 短いが壊れた桟橋があったので、そこを補修してから渡し板を使って上陸した。


 俺は偵察メンバーを選ぶことにする……。

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