第六章 湖めぐり旅4

第164話 アルテミス湖に行ってみたい

 俺達は一路いちろ北へと向かっていた。


 テミス湖に来た時には見えなかったが、北に新たな水路を発見し、クルーザーが進んでいるところである。


 今までは、女神の結界――白い霧におおわれていたので、アルテミス湖には近づけず、誰一人行ったことはないようだ。


「涼しくなってきたな、これは助かる」

「ええ」


 南国のテミス湖から離れていくと、気温は下がって過ごしやすくなる。


 獣人達がいるニュクス湖も、熱帯雨林気候の高温多湿だったので蒸し暑かった。


 暑さに慣れているアマラとシレーヌは元気である。


 まあクルーザーにエアコンがあるおかげで、俺達はへばることはなかった。


 全員、涼しい船室キャビンに入りびたる日が多く、お高い船はベットルームも快適である。

 ただ旅を続けていると、どうも季節感が狂う。


 今の季節はヘカテー湖のあたりだったら、夏の終わり頃だろう。秋は近い。


 冬前には戻らんと、湖が氷ってしまい日本には帰れなくなる。


 なので俺は、アルテミス湖には長居する気はなかった。


 プレハブのバンガローも置いてきたので、陸地おかに上陸はしたとしても、寝泊まりはクルーザーになるだろう。


 いろいろと考え込んで不安だが、とにかく行ってみないことには始まらない。


 何があるのかな? あの水路の向こうに。確かめたい……



「て、早っ! 一日で着いちまった」


「なのだ!」


 アルテミス湖への到着は早かった。


 速度を落としゆっくりと船を進めていたのだが、水路がほぼ真っ直ぐだったおかげで、わずか一昼夜で来てしまった。


 クルーザーが全速力を出せば、半日で着く距離である。


 今までは二、三日かけて、他の湖に来ていたので完全に拍子抜けだ。


 やはりクルーザーは速い。とりあえず周りを見渡して見ると、


「……この湖は広い……のかな?」


「奥の方は見えないわね。霧で塞がっているわ」


「それでも大地が広がっているわ。これは凄いとこだわさ!」


 リンダが言うとおり、いくつもの小高い山や平地と森林が、湖を囲むように広がっていた。


 大自然の雄大な景色がそこにある。やっぱりヘスペリスはどこも美しい。


 霧で見えなくなってる所は残念。

 

 いずれ霧が全てなくなる日がくるだろう。その日は近い。


 巫女達が聞いた、「……破られた」という女神の言葉は結界のことで、消滅するまでもう猶予ゆうよはないかもしれない。


 気になるのは、誰によって破られたかだ? 


 予測はついてる、ホビット婆の言っていた「邪神」とかいうやつだろう。


 厄介なことにならなきゃいいが……俺を巻き込まないでくれえー!



 巫女達に女神のことを聞いてみると、


「あれから、お告げはないのかい? 雅さん」


「はい、まったく……音沙汰ありません」


「アマラにもないのだ」


「うんうん」


 五人に聞いてみたがこたえは同じで、あれ以来啓示けいじはないそうだ。


 やはり女神の力は弱まっているようだ。


「体が楽でいいわん。でも早く巫女はやめたいわん」


「……こらこら、色目をつかって胸をよせてくるな。童貞はやらん!」


 金縛りにならないので、ハイドラはせいせいしてるようだった。


 俺が勇者にされたように、巫女もなりたくてなったわけではないのだろう。


 神託によって魔力の強い者が選ばれると、あとからフローラに聞いた。


 雑談をしながらも、俺達は辺りを警戒する。


 テミス湖で過ごしたように、バカンス気分ではいられなかった。


 アルテミス湖に来てから、どうも他の湖とは雰囲気が全然違う。


「遠くから殺気を感じるのだ」


「そうね。かなり遠いけど」


 女達の顔つきは険しくなって、いつでも戦えるよう身構えている。


 これは本能で危険を察知しているのだろう。そうでなければ、弱肉強食の自然界では生きられない。


 科学では証明されていないだけで、霊感は誰にでもある。


「……さてどうするか」


 このままジッとしてるわけにもいかないので、俺達は動くことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る