第161話 奥様達を説得するしかない

 二日も過ぎると、俺達はイルカ達とすっかり仲良くなっていた。


 ジャンプ輪くぐりに、ビーチボール遊び、エサと引き換えに芸を見せてくれる。


 別に仕込んだわけではなく、せめてものお礼のようだ。


 あるいは、イルカが遊んでるだけかもしれない。



「これは楽しいのじゃー!」


 ドリスがイルカの背に乗って遊んでいた。これなら泳げなくても、安全に楽しめる。


 溺れそうになれば、すぐにイルカが助けてくれるのだ。 


「グウウウ……」


 もっとも、ヨーゼフとパトラッシュの機嫌は悪くなり、船の上でうなっていた。


 そして……ガブガブ。


「いてえー!」


 だから俺を噛むなとあれほど! ……犬に言っても無駄である。


 気を取り直し、俺もエサを与えてイルカに乗ることにするが……。



「よし、頼むぞ……えっ!?」


 乗った瞬間に俺は振り落とされ……いや、空中を飛んでいた。

 空と海が逆さまになる。


「!ーおおおおおおう !ーえれめや」


「きゃははははは!」


 力のあるイルカ達は俺をボール代わりにして、遊び始めてしまう。

 パス回しすんなー!


「キャウ! キャウ!」


 それを見て、赤ん坊イルカは喜んでいるようだった。女達も笑っている。


 ええい、俺は玩具おもちゃじゃなーい!



 そんなこんなで日が経ち、俺は奥様達を集めて話し合うことにする。


 旦那達は、始めから席を外してもらった。


 顔を合わせたら言い合いになるのが目に見えており、それでは揉めるだけなので、話が進まないからだ。


 俺は交渉人ネゴシエーターじゃないんだが……。



「それで何でしょう? 海彦さん」


「はい、少々問題が起きましたので、皆さんにご報告と提案をさせていただきます」


 何事かと、場は少しざわつくがすぐに静まったので、俺は話し始める。


「皆さんが毎日食べているフルーツと、海の魚がかなり減ってしまいました。毎日採ってきている族長達に聞いていただければ分かると思いますが、今はかなり遠くまで採集に出かけてます。海の中の様子は……テレサさん、ご報告お願いします」


「はい、海彦さんの言うとおり、かなりの生き物がいなくなってしまいました。サメの被害も多少はあったでしょうが、やはり捕りすぎかもしれません」 


「…………」


 聞いたとたんに、奥様軍団は押し黙る。


 全員心の中で、「やっぱり食べ過ぎよね」と思い、罪悪感を感じたのだろう。


 ちなみに半分は嘘だ。確かに減ってはいるが、捕る気になればまだまだあるのだ。


 人魚のテレサさんにわけを話して味方につけ、仕込みサクラの証言者になってもらった。


「そこで提案ですが、やはり休漁期間を設けるべきだと思います。日本でも水産資源を管理するのにやっています。フルーツも同様に、採って食べるだけでなく栽培すれば良いんです」


「海彦さん、どうすれば?」


「土を耕して畑を作って種をまき、苗木を植えて育てます。あとはいつものように百科事典で栽培方法をお見せします。ただ肥料はいりますし、水をやる人も必要ですね。そこで村々から人をココに派遣して大量生産した方が、みんなに果物を配れると思います」


「……そうね。私達だけで食べるのはズルいわよね」

「うんうん」


「あとはテミス湖で河豚ふぐの養殖をすれば、いつでも食べられるようになりますよ」


 これがトドメの一言となる。全員目の色が変わった。


 奥様達は井戸端会議をすぐに開き、村に帰還することが決まる。


 決断は早かった。やはり奥様達も村のことは気になっていたのだ。


 人は命令されれば反発するが、ていねいに説明して理由を話せば、分かってくれるものなのだ。


 嘘で言いくるめようとする奴もいるが、それは論外。


 こうして村への帰還が決まる。


 これで、最後とばかりにフルーツと魚をたくさんとることにした。


 もちろん文句は言わない。これは自分達で食べるのではなく、村への土産である。


 海産物とフルーツを集める中、大事件が起きる……。

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