第146話 キャンプ場を作りたい

「いでよ土精霊ノーム! 台車を押すのじゃ!」


 荷物を積んだ台車を俺が引っ張り、精霊さんが後から押してくれる。


 おかげで運搬作業はかなり楽である。


 もともと鉱山の鉄鉱石を運んでいたのだから、土精霊にはパワーがある。


 汗を流してがんばってくれるので、俺は感謝するしかない。



 キャンプする場所は、海の近くにある松林。


 日よけと防風林となり草地もあるので、毎日を過ごすのにはよさそうだった。


「この辺にビニールシートをしきましょう」


「マットレスもいるわね」


 女達は小屋作りに積極的だった。やはり住む場所なのでこだわりもある。


 内装はまかせるとして、俺は近くにテントを設置することにした。


 荷物置き場にする予定だが、やはりプライベート空間は必要だ……俺用に。


 テントを立てた後、スコップで穴を掘ってトイレを作ることにした。

 これがなければ話にならず、人の生活には欠かせない。


 これも土精霊さんに手伝ってもらい、囲いつきの女性用もいくつか作っておく。


 着替えは見られても気にしないが、こればっかりは流石に嫌がる……まあ、それが普通なんだけどね。


 ニュクス湖ほどではないが、ココの気候も暑く、すぐに乾燥するので便の処理は楽だった。


 使ったあとに石灰をまいて、除菌と消臭をすればいい。さらに砂をかければOKだ。


 モルタルの材料なので石灰はたくさん持ってきている。


 もう一つある物を作りたいとこだが、やや面倒なので後回しにして、木製の椅子便器を俺は設置する。


 しゃがんでするのは疲れるし、女達もクルーザーの洋式トイレに慣れてしまっていた。



 そこに、


「海彦、丸太を持ってきたのだ!」


「サンキュー、アマラ。じゃー柱をぶっ立てるとしよう」


 アマラとシレーヌが建築資材を担いでいる。数本の丸太だ。


 浜辺ではしゃいでいたが、ハイドラのところに行って小舟から運んでくれたのだ。


 遊ぶだけでなく、二人はちゃんと働いてくれるので誰も文句は言わない。


 ……フローラは厳しいが。

 

 まずは先端の尖った丸太を地面に突き刺す。柱なので、もっと深く刺す必要があった。


 脚立きゃたつを立てて俺が上から叩こうとする前に、


「えーい、なのだ!」


 アマラが高く飛び上がって、木ハンマーで上から叩いてしまう。


 たった一撃で、丸太は地面に深々と刺さった。アマラは次々と丸太を叩いていく。


「……俺の出番がない。しくしく」


 俺は柱の支え役。

 それでもハブられるよりは、まだマシかもしれない。久々に肉体労働をした気がする。

 

 柱を立てたらあとは組み木だ。丸太はすでに加工してあるので、あとは他の木材を差し込むだけでよい。


 おもちゃのブロックのようなもので、釘はつかわなくて済む。叩いてはめ込むだけだ。


 板を並べて壁と窓を作り、大型バンガローはまたたく間に出来上がっていく。


 ミシェルと親衛隊の仕事は早い。


 俺がアルザスにいたときに、プレハブ工法を伝えると、エリックさんがすぐに組み立て材料を生産したのだ。


 騎士団の野営用に作られ、騎士達はバンガローの組み立て方を真剣に覚える。


 訓練でもテント生活はしんどいので小屋の方がまだいい。


 ニュクス湖の基地にも建てられており、バリエーションも増えていた。


 ミシェル達が組み立て作業をしているので、俺は手持ち無沙汰になってしまう。



「海彦はもう休んでもいいぞ。あとは我らだけで十分だ」


「なのだ!」


「えっ…………」


 建築資材の運搬は終わり、内装品もあらかた入れ終わっていた。


 ランタン・バッテリー・電気コンロ・小型冷蔵庫・扇風機などの家電品がある。


 アルザスで作られた物が運びこまれ、クルーザーにあった物は少ない。


 電化製品だらけになると、もう異世界ヘスペリスにきている感覚が薄れていく。


 外に作られている調理場もリンダが仕切っており、俺が手伝えることがない。



「ううっ……」


 そこにリンダが助け船を出してくれた。一人だけサボってるのは辛い。


「海彦、暇だったらまきを拾ってきておくれ」


「分かったー!」


 仕事をもらえて、俺は嬉し涙がでる。


 火精霊サラマンダーは船の動力源なので、リンダの魔力は温存しておく。


 クルーザーの緊急出港もありえるので、炊事で魔力を使わせるわけにはいかない。


 あと夜の海は寒いので、焚き火は必要だ。


 俺はロープとずだ袋を持って、松林の奥へと拾いにいくことにする。

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