第147話 露天風呂を作りたい

「けっこう流木があるな、明日にでも取りに行こう」


 高台から砂浜をながめて、俺は気づいた。これならまきに困ることはないだろう。


 国立公園のように国が管理してるわけではないので、取り放題だ。思わずウキウキしてくる。


 ちなみに、俺は流木を売って稼いでいました。


 重いのでリヤカーに乗せて、原チャリで家まで運んで加工します。

 洗って皮をはいで乾かします。ブラシや紙ヤスリで削ったりもします。


 手間はかかるけど、元手はかからんのですよ。売れれば金になりまっせー!


 海のものは俺の物。

 


 薪拾いをしてるうちに、俺は思い出す。


「ああ、そういえば松ぼっくりは着火剤に使えるんだったな。拾っておこう」


 俺は素人だが、キャンパーなら知ってることだ。アニメか漫画で見たことがある。


 野営で足りない知識は、あとで百科事典を読むことにしよう。


「……この辺じゃな」


 あちこちをうろついていると、ドリスの姿をみかける。


 しゃがみこんで土精霊と話をしているので、どうやら仕事をするようだ。


 集中してるようなので邪魔しないように、俺は黙って見守ることにする。


「よし、掘るのじゃ!」


 勢いよく土砂が空に舞い上がった。相変わらず、精霊さんの穴掘りは派手である。


 ニュクス湖でもやった井戸掘りだ。これは生活するのに助かる。


 海の塩水はそのままでは飲めないし、テミス湖までみに行くのは大変だ。


 水場が近くにあれば、運ぶのに苦労せずにすむ。アレにも使えそうだ。


 みんなそれぞれ得意分野があり、働いてくれるからこそ共同生活は成り立っている。


 だから俺も仕事をしたいのだが、女達が有能過ぎるので出番がなく気が引ける。


 こうなると釣りをして、魚をとるしかなかった。



「熱っ!」


「ドリス!」


 俺はドリスの叫びに反応し、急いで近寄って体を引っ張りその場から遠ざけた。


 よく見ると、間欠泉のように吹き出た水から湯気が立っている。


「これはお湯!? 温泉だ――――!」


「じゃな」


 どうやら土精霊ノームは温泉を掘り当ててしまったらしい。


 これはこれで使える。源泉はかなり熱いようだが、冷ませばいいのだ。

 騒ぎを聞きつけた、みんなも駆け寄ってくる。


「どうしたの!?」


「土精霊が井戸を掘っていたら、熱い湯がでてきてしまった。ドリスの体にかかったらしいから、ロリエちゃんてやってくれ」


「分かったわ、お兄ちゃん」


「すまんのじゃ」


 ロリエは革の医療カバンを持ち歩いているので、怪我があればすぐに治してもらえる。


 中には薬や包帯などがあり、いざとなれば樹精霊さんの出番になるだろう。


 どうやらドリスは軽い火傷やけどですんだようで、俺と犬達は安心する。

 


「でもドリスのおかげで水には困らなくなったわね。これなら、毎日お風呂に入れるわ」


「じゃー、大きな露天風呂を作りましょう」


「賛成!」


 雅の提案に反対する者はおらず、綺麗好きな女達はキャキャと喜んでいる。


 洗濯するのにも使えるから、俺も嬉しいが……


「じゃー石を拾ってこないとね。海彦、頼んだわよ。私達は周りを掘っておくから」


「えっ……」


 ここで俺は気づく。海辺に大石は見当たらない。


 上流から下流まで流されるうちに、ほとんどの石は丸く小さくなってしまうからだ。


 となればテミス湖から石を拾ってくるしかないが、だだっ広い湖の周辺から探すとなると、大変な重労働になる。


 石もたくさん必要だ。仕事はもらえたが、これはかなりキツい。


「まあ慌てないで、ゆっくり作ろう」と言える雰囲気ではなかった。


 女達はせっかちで、すぐにでも風呂に入りたそうにしており、俺とはやる気が全然違う。


「それでは海彦様、がんばってください!」


「じゃー、石の運搬は私が小舟でするわん。海彦、いくわよん」


「アマラも行くのだー!」


「ちょっと待て! 心の準備がー!」


 ためらっている時間すらもらえない。


 俺はハイドラとアマラに手を引っ張られ、砂浜にある小舟まで走らされる。


 息を切らしながらボートを押して乗ったとたん、ハイドラは船外機をぶん回して猛スピードをだす。


「急ぐわよん!」


「きゃははははは! もうたーぼうと、は速いのだ!」


「ひぃいいいいい!」


 アマラは喜んでいるが、俺は振り落とされないように、船に必死でしがみついていた。


 だから、心臓に悪いからやめれー!

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