第五章 湖めぐり旅3

第144話 リーフを可愛がりたい

 俺達は長くうねった水路を進んでいた。水の流れはゆるやかで、光を反射して水面がきらめいて、美しい。


 辺りは鬱蒼うっそうとした密林ジャングルのままで変化はなく、遠くの様子は分からなかった。


 この先がどうなっているか見えないので多少不安ではあるが、水路は一本しかないので迷うことはない。


 俺達は流れに沿って行くだけだ。


 クルーザーが進むにつれ、大型獣の姿は見えなくなり、木々も段々少なくなっていく。


 場所が変わりつつあるのだろう。テミス湖は近い。



「きゃははは、なのだ!」


「ほーら、リーフ!」


「キュー、キュー!」


 クルーザーの甲板で、アマラとシレーヌがリーフと遊んでいた。


 二人は本当に楽しそうに笑っている。


 出会った頃は神怪魚ダゴンのせいで心に余裕がなく、みんなと遊んだりはせずに、ひたすら戦う訓練をしていた。


 フタバサウルスを倒すことしか頭になかったのだ。


 ニュクス湖の危機が去り、ようやくゆとりがでたのだろう。


 リーフの面倒は、みんなが代わるわる見てくれた……俺が触れあえる時間がない、しくしく。


 まあ、リーフがいるおかげで俺達は助けられているところもある。


 二人乗員が増えたので、クルーザーは更にやかましくなり、女達の喧嘩は絶えなかった。


 狭い船内で毎日顔を合わせているのでしょうがないと思うが、男の俺からすればしょーもないことで言い争うので、女はこらえ性がないように思えてしまう。


 もっとも、大声を張り上げることでストレスを解消しているだろう。


 そばで聞かされる俺は、たまったものではないが……。


 それと月に一度、大人しいロリエすらイライラする日が必ずある。


 理由は分かっているし、日本で聞いたらセクハラなので、俺は近寄らずに距離を置くことにしていた。



 そうした女達の怒りを、リーフがやわらげてくれた。


 可愛い姿を見れば母性本能を刺激され、でたくもなる。


 ペットのいやし効果で、アニマルセラピーによってストレスが軽減されるのだ。


 あの時、殺さずに飼う決断をして良かったと思う。


 もうリーフは家族の一員と言っていい。


 ちなみに、ドリスの犬もクルーザーに乗っている。ドワーフ村にいたのだが、ドリスがいなくなってから落ち込んだので、可哀想かわいそうに思ったチャールズさんが連れてきたのだ。


 ヨーゼフとパトラッシュは元気になるが、ドリスがリーフと遊んでいると非常に機嫌が悪い。

 動物だって嫉妬しっとするのだ。


 見かねた俺が相手をしてやると……ガジガジ。いてーよ! だから噛むんじゃねー!



 他にも単調な生活にならないように、俺達は雅や親衛隊と交流する。

 交換留学生のように、乗員を交代させるのだ。


 女同士なので話は弾み、もう女子会と言ってもいい。


 お互いを理解するにはちょうど良くて、親睦しんぼくも深まる。


 俺もプリプリ号に泊まりいくが、男だからといって意識はされない。


 ……ただ、俺の目の前で服を着替えるのはやめて欲しい。


 雅やミシェルは日本の話を聞きたがった。


 俺にとっては日常の出来事でも、異国の話は聞いてて面白いのだろう。


「日本には娯楽品ごらくひんが一杯あるのですね? 海彦様」


「ああ、物がありすぎて売れなくなってますよ。まあそのおかげで、古い物なら安く手に入るしタダでもらえたりもしてます。ワゴンセールは狙い目だな」


「なるほどなー、物がたくさんあっても余るのか……処分が大変だな」

 二人はしみじみ感じていた。


 あと俺は二人に日本語を教えている。雅の記憶力は抜群で、一度覚えたことは忘れない。


 天才ではなく、これは超記憶症候群ハイパーサイメシアだろう。


 外国人には難しいとされる日本語も、雅は読めるようになっていた。


 ノートパソコンも使いこなせるようになり、電子書籍を読みあさって記憶している。


 パソコンは何台かあるので、一台を雅に貸していた。


「ヘスペリスには辞書がありませんので、こんど作ってみます」


「それはいいですね。みんなの役に立つと思います」


 女神の恩恵ギフトがあるうちは話せるが、女神の力が弱まってると聞いてるので、通訳がなくなる可能性もある。


 非常時に備えて、標準語であるエルフ語を俺はフローラから習っていた。


 そして、アマラとシレーヌも日本語を覚えるのだが……


「でか○ん、ぜつりん、まぐわい」


「きゃははははは!」


 エロ語を話すなー!

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