第143話 次の湖に期待したい

「あー、そうじゃったのう。ヘスペリス連合軍は解散じゃが、儂らはニュクス湖にしばらく留まることにした。族長達が一堂に集まったのじゃから、今後の相談をすることにした。もし、何かあったら連絡をよこしてくれ、直ぐにかけつける」


「頼りにさせてもらいます。クルーザーの整備と補給をしてから、ここから西に進んでテミス湖に行ってみます」


 ニュクス湖を測量した時に、西側に水路があるのは確認している。


 人魚のシレーヌにも聞いており、そこを通れば次の湖に行けるだろう。


 ニュクス湖での無線の応答はなかったので、テミス湖に期待するしかない。


 今度こそ、異界人の手掛かりがあればいいが……。



「旅の食料は我らで用意させていただく。勇者殿へのせめてもの恩返しでござる。神怪魚の肉もあるし、米と虫をありったけ!」


「……有り難く頂戴ちょうだいします。アタワルパさん」


 これに加えエリックさんからも、基地の食料をもらえることになった。


 みやびのプリプリ号にも大量に積むので、足りなくなる心配はないはず……でも女達は食うからなー。現地調達は必要です。


 そのお姫様は、アルザスに帰る気は全くないようだった。


 エリックさんは渋い顔をしたまま黙っている。頑固なので説得が上手くいかなかったのだろう。

 雅はこの場で堂々と宣言した。


「旅のお供をさせていただきますね、海彦様。私はどこまでもついて参ります!」


「私は雅様をお守りする。それと頼りにしてるぞ、海彦」


「ああ……」


 断れる雰囲気ではなかったし、「危ないから帰ったら?」とも俺は言えなかった。

 雅には有無を言わせない、凄みがある!



「アマラも海彦についていく!」


「私も!」


「コラッ! アマラ! また勝手なことをするな!」


 アマラとシレーヌも負けじと声を上げた。


 アタワルパさんが娘を叱るが、アマラはビビリもせずに自分の思いを語る。


「アマラも獣人族も人魚族も、海彦に助けられた。その恩を少しでも返したい。旅はうんと危険だ。アマラ、海彦を守りたい!」


「私もアマラちゃんと同じ気持ちです! 母様かかさま!」


「やれやれ、困った子供達ね。これは止めても無駄でしょう。海彦さん、シレーヌをお願いできますか?」


「はい、分かりましたテレサさん。二人がついてきてくれるなら心強いです」


「ぼでいがーど、は任せるのだ!」


 俺はちょっとだけ迷ったが、旅の同行を許すことにする。


 二人増えたとこで問題はないし、どうせアマラ達は勝手についてくるだろう。


 恐らく面倒事を起こすだろうから、一緒に暮らして見てやった方がいい。


 強いので戦力としては期待できる……ただ、童貞はやらんぞー!


「うぬぬぬぬ! 勇者殿とテレサ殿が許すのであれば、仕方ないでござる……アマラ、危ないことだけはするなよ。それと海彦殿の言うことには必ず従え」


「分かった、タタ


 アタワルパさんも厳しさはあるが非情ではなく、娘を心配している親である。



 もっとも他の娘達は父親の心配など何のその……。


「フローラ、村に帰る気は……」


「ないわよ!」


 フローラはそれだけ言うとロビンさんから離れて、母親のエイルさんと話をしていた。


 村に戻ってくるように言っても、誰も言うことを聞かない。


「世界は広いのじゃ父様ととさま! わらわは、もっともっと海彦と外を見て見たい!」


「いやだけどなー、外は危険じゃぞドリス……」


 ドワーフのチャールズさんも、ドリスの説得が上手くいかず困っていた。


「あたいは、二隻のクルーザーをみなくちゃいけないからね。帰れないよ親父」


「…………」


 オグマさんは、「うむ」とは言えず黙ったままだった。顔に変化は見られないが、リンダが帰ってこないのを明らかに嫌がっている。


 娘達は大人になっても父親につきまとわれては、ウザくてしかたないようだ。


 過保護かほごすぎなので、離れたくなる気持ちも分かる。



 それと、みんな旅が楽しくて止められないのだ。


 新しい発見がある冒険の日々が面白いから、刺激のない生活には戻りたくないのだろう。


 俺のやれることは、羽目を外しすぎないように気を配ってやることだけだ。


 あとは旅の無事を祈るだけだが、トラブルのない日がない……気合いを入れて、頑張るしかなかった。


 二日後、準備を終えた俺達は旅立つ。


「行くぞリーフ」


「キュー!」


 リーフの鳴き声と共に、クルーザーは出発した。

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