第142話 リーフを守りたい

 テーブル席に着くなり、みんなすぐに食べ始める。お祈りとか人を待つとかはしなかった。


 フローラ達はそれだけ腹が空いているのだ。もう早い者勝ちである。


「いただくわ」


「美味しいー!」


「さすがお兄ちゃん!」


 全員料理を美味そうに食べてくれる。お世辞抜きで褒められるのは悪い気はしない。


 我ながら料理の出来は良いと思う。これもヘスペリスに良い食材があるからだ。


 叔父と山彦に食わせてやれないのが残念である。


 アマラとシレーヌは食器を使えるようになり、マナーがかなり良くなっていた。


 最初の頃はテーブルを汚して散らかしてたので、フローラが二人をよく叱っていた。


 リンダが作ってくれた、小型トングとロングフォークのおかげである。先割れスプーンも使っている。


 はしの使えない亜人にとって小型トングは、料理をつまんで口まで運ぶのに便利だった。ようはポテチつかみと同じ。


 俺だけが箸を使ってるので、女達からは奇特きとくがられる。これは芸じゃないんだが……。


 たとえ異世界でも箸文化は守るぞ!



「これは美味いのだ! やっぱりアマラは海彦とつがいになる」


「私もー!」


「コラー!」


「まあまあ、せっかくの手料理なんだから味わって食べな」


「そうねん」


 アマラの発言で食卓が修羅場になりかけるが、リンダが収めてくれたので助かる。


 食事の時まで喧嘩すんなー!

 

 みんなで後片付けをして茶を飲み、人心地ひとごこちついてから、俺達は基地の港に戻る。


 リンダが回復したので船は動かせるようになっていた。



 桟橋では大勢の人達が出迎えてくれた。


 昨日、俺達が帰ってこないから、心配していたのだろう。申し訳ない。


 先に娘達が船から下りると、すぐに親達が駆け寄ってくるが、フローラ達は母親としか喋らなかった。


 それでも娘の元気な姿を見て、父親達は笑顔になっていた。


「さてと、みんなに事情を説明しないとな。いくぞ、リーフ」


「キューイ」


 俺は桶を持ち上げてリーフを運んでいく。基地の広場まで歩いて行く途中、誰もが珍しそうにリーフを遠目に見ていた。


 近寄ってはこなかったが少し不安がある。


 エリックさんと族長達が、リーフの殺処分を求めてきたらどうしよう?


 ……もし、説得できなかったら逃げるしかないな、リーフは絶対に俺が守る!


 青空の下、広場に丸く椅子が並べられて主立った面々が座っていた。テーブルはなし。


 俺もリーフを抱えて着席し、昨晩のことと事情を話して、みんなに頼みこむ。


「……と言うわけで、リーフをみんなで育てることにしました。皆さん思うとこもあると思いますが、コイツを認めてやってください。お願いします!」


「キュー!」


 リーフは周りの雰囲気と大人達を恐れ、桶から飛び跳ねて抱きついてきた。


 俺は頭をなでて、あやしてやる。まずエルフのロビンさんが応えてくれた。



「大丈夫じゃ海彦殿。実は昨晩お婆様が教えてくださったので、もう事情あらましはみんな知っとる」


「えっ!? あの婆、いつのまに!」


「我らに異存はないでござる。勇者殿が飼う生き物を奪ったりはしないでござる」


「全軍、全部族に伝えたぞい。聖獣には手を出さぬよう厳命した。守らぬ者は儂が許さん!」


「うむ」


「ありがとうございます!」


 俺は心から感謝して頭を下げる。


 族長達が約束してくれたので、リーフが人から狙われる心配はなくなり、俺はホッとする。


 正直、全部族から逃げるなど不可能に近いのだ。


「よかったな、リーフ」


「キュー、キュー」


 俺が持ち上げてやると、リーフも喜んでいるようだった。ペットを飼うのも悪くない。


「さて、この件はこれで終わりじゃな。神怪魚ダゴンは倒したが、海彦殿はまだ旅を続けるのじゃろうか?」


「ええ、ロビンさん。異界人エトランゼを探すのが本来の目的ですから……」


 会議の内容は今後の話へと変わった。


 俺の意志は変わらないが、族長達は娘ともめることになる……。

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