第141話 料理の腕をふるいたい

 おや!? チビ竜の様子が……


「キュー、キュー」


 フタバ竜の子供は変化して、体色は明るい黄緑となり、赤目だったのが瞳の色は黒になる。

 額には聖宝石が輝いていて、愛らしい姿になっていた。



「これで其奴そやつ聖獣ケルピーとなった。ちゃんと面倒をみるんじゃぞ海彦。ひょひょひょ!」


「それはいいが……ちょっとまて! 何を食わせりゃいいんだよ!?」


 婆は返事もせずに明かりとともに消える。いつもこのパターンだ。

 だから魔女は好かん!


「キューイ、キューイ!」


 ただ、俺の手に頭をこすりつけてくるリーフは百倍可愛い。


 俺は桶に水を汲み、リーフを中にいれてやると嬉しそうにはしゃぐ。


「やっぱり水はいるよな、人魚と同じだ」


 しばらく様子を見ていると、遊び疲れて眠ってしまう。


 俺は桶をサロンに運んで静かに置いた。そのままリーフを寝かせることにする。


「やれやれ、もう一仕事残ってるなー……」


 そう、今度は倒れた女達を運ばねばならなかった。このまま、ほっとくわけにはいかない。


 今起きてるのは俺だけだし、リンダも倒れたのでクルーザーは動かせず、ここで一夜を過ごすしかなかった。


 俺は順番に女達をおんぶして、ベットルームに運んでいく。広い寝室があって良かった。


 でも、女体の持ち上げを繰り返すと結構きつい。


「ああ重い――いてっ!」


 などと言うと、意識のないはずの雅から頭を叩かれた。ホントに寝てんのかよ?


 全員を運び終えたあと俺もサロンで寝ることにする。リーフはぐっすり眠っていた。


 サロンに寝具がなかったので、体が少し痛かった……。



「キューイ、キューイ!」


「ちょっと待ってろな、直ぐに用意する」


 朝、リーフの大きな鳴き声で目を覚ます。腹が減っているのは言うまでもない。


 俺は何を食わせるか悩む。


「ミルクはねーし、取りあえずある物を出してみよう」


 まずは果物をミキサーにかけてすりつぶし、どろどろジュースを手早く作る。


 前に鰐鮫がリンゴを食っていたので、試してみることにした。


 ジュースをおわんにいれて前におくと、リーフは首を曲げてゴクゴクと飲み込んでいた。

 どうやら、いけるらしい。


 それとリーフを見ていて俺はあることに気づく。やはり、生き物を飼うのは気を遣うものだ。


「歯がまだないから、固い物は食わせられんな。魚も加工しよう」


 次に俺は冷凍庫から魚を取り出して、電子レンジで解凍した。


 手早く包丁でさばいて軽く塩をふって焼き、小骨をピンセットで取り、これもミキサーにかけてすりつぶした。


 作ったエサを皿に盛ってリーフに与えてみると、これもちゃんと食べてくれたので俺はホッとする。


「ふー、なんとか育てられそうだな。早く大きく……なーるーな。親なみに大きくなったらどうしよう……」


 将来のことを考えると不安になるが、考えてもしょうがないので今は棚上げする。


 神怪魚にならない以上、どうにかなるだろう。


 食って満腹になったリーフは、すぐに寝てしまう。やはり赤ん坊とは寝るものだ。


 聖獣も人と変わらないようで、その間は俺達が守ってやらねばならない。



「あー、フローラ達の朝飯も作らんとなー、忙しい」


 昨日の戦いで、疲れてないのは俺くらいである。


 指揮官としては大声を張り上げるだけだったので、体の疲れはとれている。


 女達は体力・魔力を使い果たしたので、回復するには多少時間がかかるだろう。


 美味い物を食わせて、元気をつけさせてやりたいとこだ。


 ただ、みんな一杯食うから量はいるな、このさいクルーザーにある食材は全部使ってしまおう。


 どうせ冷蔵庫にある食料は残り少ないので、あとは王様と族長に頼んでもらえばいい。


 俺は自分の頬を叩いて気合いを入れる。



「さてやるか、たまには美味い飯を作ってみせる!」


 日本にいた時は炊事を長年やってきたし、バイトでワンオペをこなしたこともある。


 ホテルでの調理スタッフはキツかったが、様々な料理を覚えることができた。


 俺は冷蔵庫から食材を全部出して、クルーザーのキッチンで料理を作り始める。


 久々に自分の腕を振るうのは楽しいものだ。結局、朝飯にはならず昼飯になる。


 疲れていた女達が起きなかったからで、俺は無理には起こさずに、もう少し寝かせておくことにした。


 ……それにフローラの寝起きは最悪である。何度も痛い目をみてるので、もう起こしたくはない。


 その代わり調理に手間と時間をかけることにした。手抜き料理は美味くないからな。


 出来上がった料理をテーブルに並べてると、匂いに釣られて全員が起き上がる。

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