第140話 責任を持って飼うしかない

「…………」


 女達も辛そうな顔のまま、おし黙ったままになる。いつもみたく笑顔ではいられない。


 亜人達も狩りはしても、子鹿までは獲ったりはしないと聞いている。


 キューキュー鳴いてる神怪魚の子供を前にして、俺達は立ちすくんでしまう。


「ひょひょひょひょ! 大分困っておるようじゃのう、海彦」


「ちっ、婆! また嫌がらせにきたのか!?」


 いつのまにか、曲がった杖をもった意地悪魔女が甲板かんぱんに現れる。


 俺は婆を見たとたんに機嫌が悪くなる。

 もう脊髄反射せきずいはんしゃしてしまい、ムカつく心は抑えられない。


 怒り顔の俺に、婆はなだめるように言った。



「そう邪険にするな、まあ話を聞くがよい。お前達、コイツを飼う気はあるかえ? 面倒を見る覚悟はあるかえ?」


「なに! 飼うだと!」


「どういうこと、お婆ちゃん!?」


 いつもはひかえ目なロリエも驚いて、先祖に問いかける。


「このまま育てば、其奴そやつは神怪魚になるじゃろう。それは将来、邪神・・に支配されるからじゃ。ならば今のうちに、そのつながりを断ってしまえばよい」


「そんなことができるのか?」


「うむ、ちょうど巫女がそろっておるし、他の者たちも魔力がある。力を合わせれば可能じゃ。まだ全員処女で良かったのう、ひょひょひょひょ!」


「……分かりました、お婆様。このまま殺すのは忍びないですから。みんなもいい?」


「ええ!」


「分かったのだ!」


 俺達は同時にうなずく。


 たとえ偽善ぎぜんと言われようが、あとで罪悪感に悩まされるよりはマシだった。


 犬猫ペットを責任を持って飼うつもりで覚悟を決める。


「ならば、コレを使うが良い」


 婆は小さな光る石を、フローラに手渡す。



「これは?」


「女神の涙、聖宝石ホーリーストーンじゃ。これにお前達の魔力をありったけ込めるのじゃ」


「はいです!」


「アマラわかった!」


 女達は円陣を組んで、フローラの手に手を重ねていく。


「いくわよ」

「ええ!」


 フローラが合図して魔力の放出が始まり、聖宝石が輝きだすと、女達は苦しそうな表情に変わる。


「こ、これは、思ったよりきついわん!」


「くっ! 体中の魔力が吸い取られるようだわさ!」


「しんどいですー!」


「まだまだ、その程度でなくなったりはせんわ! もっと根性をいれんかい!」

 

 婆は意外にスパルタだった。みんな戦いで疲れてるんだけどねー。


 しかし聖宝石といい、やはり長生きしてるだけあって物知りだ。


 それとまた、気になる単語ワードが出てきたなー……邪神? ああ絶対に関わりたくねえー!


 やがて聖宝石への魔力ごめは終わり、フローラ達はヘトヘトになって倒れ込んでしまう。


 俺はフローラを抱えながら石を受け取ると、光精霊達は消えて辺りは暗くなる。


 雅も力つき、うつぶせになって倒れていた。その代わり、婆が杖の先を鈍く光らせる。



「あとは海彦、そやつに聖宝石を当てながら名前をつけよ。それで儀式は終わりじゃ」


「えー! 名付けかよ! これ重用なんだよな?」


「あたりまえじゃ! 邪神より先に名付けなければならん」


「あーそれで、神怪魚に名前があるわけか? 分かった……」


 と言ったものの、これは悩みどころである。


 ゲームだったら自分の名前にしてるが、生き物につけたことがないからかなり迷う。


 生活がかかってたので、海で獲った物は食うか売り払ってました。


 魚は一匹も飼ったことはありません。しゃーない、連想して考えよう。


 フタバサウルス――双葉から本葉へ……。


「決めた! お前の名は――」


 俺は聖宝石をチビ竜に当てる。


「リーフ」


 と言った途端、子供はまぶしく光る。


 それは一瞬で終わり、フタバサウルスの子は大きく変化していた。


「ひょひょひょひょ。上手くいったようじゃのう」


「おおっ!」


 俺はその姿に驚く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る