第138話 助けがくるのに期待したい

 俺の空しい抵抗は、そう長くは続かない。もともと亜人との体力スタミナに差がありすぎた。


 二人は朝から夕方まで、休まず戦っていたのにもかかわらず、もう回復していて動きが良すぎる。


 栄養のあるフタバ竜の肉を食って、寝室で休んでいたからかもしれないが、厳しい自然の中で暮らしている獣人と人魚はやはりタフだ。


「なあアマラ、今日は疲れたからまた今度で……」


「それはダメなのだー!」


「そうですー!」


 やはり俺の要望は、聞き入れてもらえなかった。まあ少しでも時間を稼げればいい。


 俺はつかみかかってくる二人から逃げ回っていたが、時間が経つと疲れてしまう。


 そして、


「えい、なのだ!」


 ついに俺はアマラに組み伏せられ、マウントポジションを取られた。もう動けない……。


 すかさず二人は服を脱がしにかかってくる。手際がよくて服が破られることはなかった。


 仲の良い友達同士なだけあってコンビネーションは抜群、あっという間に俺はパンツ一丁にされた。


 ちなみに俺はトランクス派だ……この状況ではどうでもいいか。

 が、ここで二人の動きが止まる。


「シレーヌ、一番初めはゆずる……」


「アマラちゃんが、お先にどうぞ……」


 ああ、譲り合いの精神はいいですねー、実に美しい友情だ。日本じゃ消えつつある美徳。


 ……でもこれは違うな、ヤル直前になって二人とも恐くなったのだろう。


 無理もない。過激なことを言ってもアマラとシレーヌは、純情乙女のままだった。

 俺と同様に知識も経験もないはず。


 これがハイドラなら有無を言わさず、迷いなくヤッている。なにせ堂々と夜這いに来るのだから。


 しばらく二人は無言でいたが、やがて目配せして同時にうなずき、俺のパンツに手を伸ばしてくる。


 これまでか……いや、ここで待望の助けがやってくる。


 暴れ回って時間稼ぎをした甲斐はあった。寝室のドアが勢いよく開く。


 

「海彦大変よ! ――あっ、あんた達何やってんのよ!」


「子作りの最中だ。少し待っててくれ、フローラ」


「ふーん、そうだったの――て、待つわけないでしょうがー!」


 ノリツッコミのあとに、目を三角にしてフローラは怒り出す。


 アマラ達はガミガミと叱られて、言い返す間も与えられない。


 口論でフローラに勝てるわけもなく、早口でまくし立てられる。マシンガントークは誰にも止められず、俺も聞いていて何を言ってるのか段々分からなくなる。


 言葉の意味は分からんが、とにかく凄い説教だ!


 フローラは実の母親以上にうざく、アマラとシレーヌのやる気も失せてしまう。


 雰囲気は台無しにされ、不満顔を浮かべて愚痴るのが精一杯。

 

「あーもう! フローラはいつもうるさいのだ!」


「うんうん」


「いいから、さっさと服を着なさい二人とも! そんな、しょうもないことやってる場合じゃないわよ! 大変よ海彦!」


 俺はさっきまで襲われていたのだが、貞操の危機は軽い扱いにされる……悲しい。


 助かったのは良いが何事かが起きたらしく、俺はズボンを穿きながら聞く。


「どうしたんだ?」


「外に出れば分かるわ! 早くきて!」


 フローラは駆け足で外に向かい、俺も服を着ながら階段を上って外にでた。


「何だー、ありゃー!?」



 クルーザーから見えたのは、空に立ち上っている大きな光の柱。


 まるでレーザー光線のようで、星々の光が霞んでしまうほどだ。


 女達は全員クルーザーに集まっており、引きこまれるように光景を見ていた。


「光が出てる場所は、フタバ竜が根城にしていた小島の辺りね」


「おいおい、また霊道アウラが開かれたのか!? マジ勘弁してくれえー!」


「いえ光ってる範囲が狭いし、こんなに長くは光らないわ」


「ほっ、ただ異常事態に変わりはないか……しゃーない、夜間の船出は危険だが行ってみるしかないな。リンダ、クルーザーを出すから……」


「そう言うと思って、蒸気エンジンを暖めておいたわさ」


「サンキュー」


 様子を確かめに行こうにも、まともに動けるのはクルーザーと、雅のプリプリ号しか残っていない。

 船の大半が損傷しており、魔法使い達も疲れているので俺達で行くしかないのだ。


「あとやることは、みやびさん……」


「はい海彦様、お父様には伝令を出しました。私達が出かけてる間、族長様方にはお待ちいただきましょう。これでよろしいでしょうか?」


「……ああ、ありがとう」


 やはりこの姫さんは頭が切れる。俺が言う前にやるべき事をしていた。


 対応は間違っていない。危険があるかもしれないので、少人数で湖の調査に行くべきなのだ。


 暗い中では遭難する恐れがある。そこで俺はクルーザーにある装置を使うつもりだった。


 神怪魚でないことを祈りつつ、俺は操舵室に向かった。

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