第136話 踊りたいけど踊れない

 夜のとばりが落ちる頃、基地の広場にみんなが集まって、お祭りが始まった。


 戦勝祝いである。


 仕留めたフタバ竜二頭は、あっと言う間に解体されて会場に運ばれていた。

 神怪魚ダゴンの肉は祭りのメインディッシュ。


 肉は腐りにくく残った骨も材料として使うので、何一つ余ることはないそうだ。


 一頭は獣人族と人魚族がもらい、残り一頭は王国と村の亜人達で分けることになった。


 ただ、アタワルパさんとテレサさんは遠慮する。


「そんなにいらないでござる」


「そうですね。勝てたのは、他部族の方々のおかげですから」


「いや、活躍したのは獣人族と人魚族なのでもらうべきじゃ。その上で、余った分を儂らが買い取ろう。どうかなアタワルパ殿?」


「それなら良いでござる」


 エリックさんの提案で話がまとまった。代金は機械などの品物で払うことに決まる。

 こうして亜人の半数は肉を持って明日帰ることになった。


 村のみんなにも、早くおすそ分けしたいのだ。


 俺にも分け前が寄越されそうになるが、「マジいらない」と言って断った。


 巨大肉をもらってどうしろと……肉はここで食うことにする。


 食った感じは脂身や筋のないステーキといったところで、味もなかなか良い。


 キャンプファイヤーを取り囲んでの大宴会。


 基地にあったビールが配られ、飲めや歌えの大騒ぎ。負傷者達にも煮込んで柔らかくしたスープが配られる。


 起き上がれない者には、奥様軍団が手助けして食べさせていた……優しい。

 今日の勝利を祝い、誰もが浮かれ楽しそうにしている。



「ひょひょひょ、神怪魚の肉は久しぶりじゃのー!」


 ホビットの婆もちゃっかり現れて、ビールを飲みながら肉を食っていた。


 しっかり歯はあるようで、入れ歯ではなさそうだ。


 族長達に囲まれて、接待を受けているようにも見える。


「なんでばばあは、一目置かれてるんだ? みんな気を使いすぎじゃねーか?」 


「おばば様は、影から私達を助けてくださってるのよ。もう何百年も前からね」


「だから、みんな感謝してるだわさ」


「まあ電話代わりにはなるが……ん? ちょっと待て、何百年? ロリエちゃんの祖母じゃないのか!?」


「あっ! 言ってなかったわねお兄ちゃん。お婆ちゃんは何代も前の御先祖様で、ずーっと長生きしてるの。誰も本当の名前を知らないし、教えてもくれないわ」


「妖怪じゃねーか……」


 俺は思わず本音をもらす。


 考えてみれば、霊体を飛ばすなんてのは魔法ではなくてオカルトだ。


「一体何者なんだ?」と思うが答えは分からないし、そんなに知りたいとも思わない。


 意地悪ばかりされる俺にとって、婆は天敵にすぎなかった。 


 今回も弟をダシにして脅されたので、俺はムカついていた。いつか仕返ししてやる!



 宴もたけなわ、太鼓の音が鳴り出すと獣人達が踊り出す。


 焚かれたキャンプファイヤーの周りを、グルグルと回っていた。


 ダイナミックな激しいダンスで、ちょっとマネできそうにもない。


 何人かは長い火の棒を持って、バトンのように回していた。


 ファイヤーダンスは迫力があって見応えがある。


 アタワルパさんに後で聞いてみたところ、元は火での獣払いの動きで、それが伝統舞踊になったらしい。


「よし! ここは一丁、俺も豊漁踊りを――!」


 俺が輪に入ろうとすると、フローラから服を引っ張られて止められる。


「海彦止めときなさい!」


「なんでやねん!」


「あの変態踊りは、場違いすぎよ!」


「……うう、しくしく」


 そう言われてしまうと、俺は反論できなかった。


 確かにリズム感と動きは、全然かけ離れている。ディスコで盆踊りを踊るようなものだ。


 座がしらけるのはまずいし、白い目でみられるのは嫌だった。

 俺は悲しいが、踊るのをあきらめるしかない。



 その代わりにビールを飲んで我慢し、みんなの様子を見て気を紛らわせる。


 あれ? 何かひっかかるな、なんだろう?


 酔っ払ったので頭が回らない……考えるのは止め止め、もう疲れたから寝ることにする。


 俺は一人でクルーザーに戻った。違和感の答えはその中にあった……。

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