第135話 胴上げは高い

 娘に文句を言われたら親としてはむかつくが、「見てろよ!」という思いにもなる。


 怒りを力に変えて、オグマさんとチャールズさんは本気マジになった。


 肌の色が赤くなり、信じられない力を発揮する。


 全く動かなかった二人の足が動きだし、本綱が引かれていく。俺は目を丸くする。



「強い! 俺達も根性を見せるぞ!」


「おお――!」


 船から駆けつけてきた戦士達も綱引きに加わって、これで人数は倍になった。


 全部族が必死で綱を引けば、二頭のフタバ竜とてこらえきれるわけがない。


 綱はドンドンたぐり寄せられていく。さっきまでとは打って変わり、今は俺達が断然有利。


 集まった人数以上の力が出ており、本気を出した亜人達はべらぼうに強く、負ける気がしなかった。


 押せ押せではなく、引け引けだ!


 フタバ竜も何とか粘ろうとするが、疲れ切ったようで雄雌二頭は陸に近づいてくる。


 日が落ちた夕暮れ時、ついに戦いの決着がつく……。



 陸に上げる直前、本綱からの手応えはもうなくなっていた……フタバ竜二頭は死んだのだ。


 その理由は単純シンプル


 首にかけた金属ワイヤーが絞まりすぎて、皮膚から肉に食い込み血行障害を起こしたのだろう。


 気管までは閉まらなくても、脳に血が回らなくなれば、いくらフタバ竜が強くても倒れる。


 プロレスのスリーパー・ホールドと同じ。二頭はゆっくりと陸に引っ張り上げられた。

 ああ、なんとか勝てた。


「フタバ竜……お前のことは忘れてやる」


 俺はお決まりの台詞を吐いて、脱力してしゃがみ込む。戦いが終わり、ようやくホッとする。


 またやれと言われても、もう二度とやらんぞー! 絶対にやらんぞー!


「うん? フローラどうした?」


 俺の周りに女達が集まっていた。ニコニコ笑っていて、勝利に喜んでいるように見える。


 ……が、何か妙で嫌な予感がした。はっ! 俺は女達の目を見て気づく。


 これは俺をからかうか、誘う時の目つき。気づいた時には、もう遅い……



「そーれ!」


「うわっ!」


 俺は女達に担ぎ上げられて運ばれ、倒れたフタバ竜の上で降ろされた。


 みんなが俺を見上げて、何かを待っているようだった。そう言うことね……。


「ほら海彦」

「こういうのは、柄じゃないんだがなー」


 すうー、俺は一呼吸してから叫ぶ。


「獲ったどおおおおおおおおおおー!」


「ウオオオオオオオオオオオオオー!」


 俺は右拳を突き上げ、勝ちどきを上げると、誰もが歓声を上げて応えた。


 ……ようやく全て終わった、もう休みたい、眠たい。


 今回は体は疲れてないが精神的には参っていた。人の命を預かるのは、ストレスで胃が痛くなる。


 ヘスペリスに三本締めなどの手打ちはないので、俺はフタバ竜から下りようとすると、


「まだよ海彦」


「きっししししししし!」


 女達がニヤニヤ笑いながら、俺の体を再び持ち上げて仰向あおむけにする。

 この体勢は!


「みんなーいくわよ!」

 

「ええ!」


「せーの!」


「わっしょい! わっしょい! わっしょい!」


 俺は女達から胴上げをされる。

 つられるように、みんなが万歳をしていた。



「エリック殿、あれはなんでござるか?」


「雅から聞いた話じゃと、何でも日本の風習で、偉業を成した者をああやって称えるそうじゃ」


「儂も百科事典で見たぞい。『どうあげ』は勝者を祝う儀式じゃな」


「なるほどのう」


「うむ!」


 ……族長達が言ってることに間違いはない。ただ、やってることに問題がある!


 この胴上げは、俺にとって気持ちの良いものではなかった。


 何せ俺の体が三メートルの高さまで、宙に放り上げられていたのだ。落ちたら死ぬ!


 マジ、KOEEEE――――! 早く下におろせー!


「きゃはははははは!」

「あははははははは!」 


 女達は有り余る力で遊んでいた。俺が怖がっているのを見ても止めようとはしない。


「胴上げは三回で終わりだー!」と言っても聞かない。わざとやってやがる!


 結局、失神寸前までいってから、ようやく俺は下に降ろされた。

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