第134話 みんなで綱を引くしかない

「「いでよ湖精霊ニンフ! ナイアスの守り!」」


 空中に多数の盾精霊達が並び、盾を持ち上げるようにして足場をつくる。


 他の魔法使い達も最後の魔力を振り絞って、精霊を召喚した。


 途切れ途切れではあるが、空中歩道スカイロードができる。


 ツインドリルの髪をたなびかせ、ドリスは空を駆けていく。


「精霊さんを踏み台にしたぁ!?」


 俺は見事な連係プレイに驚くしかない。

 投石機も聞いてなかったので、恐らくは前日に打ち合わせしていたのだろう。


 ドリスはただ飛んできたわけではない。フックのついた本綱・・を持ってきていた。


 二頭の真上までくると、張られた金属ワイヤーに向かってダイブする!

「おりゃー、なのじゃー!」


 本綱を両手に持ったドリスが、金属ワイヤーを軸にして鉄棒の大車輪を始めると、太い綱がグルグルと巻き付いていく。


 最後にフックを引っかけ、金属ワイヤーと本綱は結ばれてもう絶対に外れない。


「やったのじゃー! おろろ……」

「ドリス!」


 目を回したドリスは平衡感覚へいこうかんかくを失って、湖に落下した。


 まずい! ドリスはまだ泳げない。


「大丈夫ですー!」


 直ぐさまシレーヌが助けに動き、ドリスを抱えて小舟にまで引っ張っていく。

 俺は安心して、叫んだ!。


『船の縄を切って、フタバ竜から離れろー! あとはみんな陸地に向かえー!』


「おお――――!」


 船とフタバ竜をつないでいた縄が、斧やナイフで次々と切られていく。


 本綱がつながれた以上、船は邪魔な重りでしかない。作戦はついに最終段階にきた!



『綱引き作戦』


 赤兜の時の地引き網作戦は途中で失敗したが、くくり付けてもらった金属ワイヤーのおかげで、今度は確実にフタバ竜を引っ張っていける。


 すでに陸地ではドワーフ族とオーク族が、太い本綱を引っ張り始めていた。


 力自慢の二部族は期待できる。そのために待機してもらっていたのだ。


「いくぞオグマ! 気合いをいれて引っ張るぞ!」


「うむ!」


「私らもやるわよー!」


「おいら達も引くー!」


 奥様軍団と獣人族の子供達も綱引きに参戦する。


 もう総動員だ。黙って見ている者など誰一人いない。


「オーエス! オーエス!」


「そーれ! そーれ!」


「うんせ! うんせ!」


 アマラの婆さんは旗をふって、リズムをとっていた。これで息を合わせて力がだせる。


 なぜかフランス語の掛け声なのは、気にしないようにしよう……。


 みんなが集まれば、万人力だ! あとは力と力のぶつかりあい。


「パオオオオオオーン!」


「プオオオオオオオオオーン!」


 フタバ竜のつがいも、引っ張られまいと必死に足掻あがく。


 陸地に上げられたら泳げなくなり、動くことさえままならなくなる。


 あとに待っているのは、戦士達による袋叩きである。まず確実に死ぬ。

 なので二頭は、首がいくら絞まろうがおかまいなしに暴れた。



 俺達は動かなくなった船を湖に放置し、戦士達を他の船に移乗いじょうさせてから陸地へと向かう。


 船団は速度を落とさず、そのまま陸地に突っ込んでいく。


 座礁して船が壊れようが気にはしない。あとで直せばいいし、時間の方が惜しい。


 おかに着くやいなや、戦士達は船から飛び降りて急いで走り出す。


 転んでもすぐに立ち上がり、とにかく綱に向かう。みんなで本綱を引くのだ!


「ウンガ――――――――!」


「おりゃ――――――――!」


 俺達が到着すると、オグマさんとチャールズさんは雄叫びを上げていた。


 位置ポジションは、一番うしろの重要なアンカーである。


 足を地面に潜り込ませながら、なんとか踏ん張ってくれていた。


 やはりフタバ竜の力は強く、拮抗状態きっこうじょうたいに持ち込むのが精一杯。


 気が少しでも緩めば、綱が持って行かれそうである。


 二人とも頑張ってくれていたのだが、リンダとドリスは励まそうとはせず、むしろ父親をあおる。


 娘達から見たら、本気を出しているようには見えなかったのだ。


「なんだオヤジ、それでもオークの族長か!? もっと気合いをいれろ!」


「やれやれ、父様ととさまも機械いじりばかりで弱くなったようじゃのー」


 馬ならぬ、父親にむち打つ。これで二人はキレた……。

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