第117話 飲み水を確保したい

「……こんな感じで、戦いたいと思います」


 俺は思いついた作戦を、みんなに説明し終えた。

 誰もがうなずいているので、受けは良いようである。


 いくつかの質問を受けた後、詳細を詰めるのに全員で相談した。


「……なのほどのう、魔物用に開発している武器とは違う。対フタバ竜といったところじゃな。海彦殿の話は分かった。儂はアルザスにすぐに戻り、その武器と新たな船を用意してくる」


「エリックさん、お願いします。それが主力になりますから」


「我らはその間、特訓するでござる!」


「私達、人魚族もやりますわ!」


 作戦が決まれば行動は早く、席を立って動き出す。

 みんな、やる気満々である。ふー、俺の意図は何とか伝わったようだ。


 教室内に最後まで残っていたのは、フローラとアマラ達で何やら会話をしている。


「ほーらね、心配いらなかったでしょ? やりたくなさそうにしていても、海彦はいつだって真剣に戦うんだから」


「うんフローラ。いい目をしているな、勇者は」


「格好いいですー!」


 だから、俺は釣り人だっつーの!


 本当にしょうがなくて、神怪魚退治をやってるだけだ!



 こうしてエリックさんはアルザスに一旦帰還する。


 またニュクス湖に来るときには、船団を引き連れてくるだろう。ある武器を積んで……。


 予定では往復二週間はかかるので、残った俺達はできうる限り準備をしておく。


 獣人族と人魚族は毎日特訓で、俺が考えた作戦にはその力が必要だった。


 基地も拡大されており、施設もドンドン建てられていく。


 軍の駐留だけでなく、将来的には街となり交易所となるからである。


 それで必要になってくるのは飲み水なのだが、神怪魚によってニュクス湖が汚されたので、今は使えない。


 そこで騎士団と職人達の出番となる。



 川から村までの水を引く、上水工事が行われることになったのだ。


 水を汲んで運ぶ作業は、毎日ともなると大変である。すぐにやらねばならない。


 全員総出で水道を掘り、石やレンガで固めてモルタルで隙間を埋め、水が地面にしみこまないように作っていく。


 上流までは三キロ程度なので、工事も急ピッチで進む。獣人達も手伝っていた。


 俺もみんなに混じって、土方どかたとして参加したのだが……


「勇者はやっちゃダメー!」


「しくしく、たまには変わった仕事もしたいのに……」


 すぐにバレて現場からおんだされる。


 俺は仕方なく、ドリスの作業を見ているしかなかった。



「いでよノーム! 地面を掘るのじゃ!」


 スコップを持った精霊が現れ、敬礼をしてから地面に小さな穴を掘り始める。


 穴からは土砂がもの凄い勢いで舞い上がっていた。精霊パワー恐るべし。


 ノーム達が穴から出てくると同時に、水が噴き出す。地下水脈を見事に掘り当てたのだ。


 井戸掘り――。


 水道が出来るにはまだ時間がかかるので、ドリスが土精霊ノームを召喚して掘らせたのだ。


 空はあまり飛べないが、小さい土方で頼もしく、壁や土台作りならやってのける。


 後は開いた穴を中心に、地面を掘り下げていけばいい。深く掘らずにもすみそうだ。


 一日たらずで、簡易井戸ができた。これはドリスのおかげと言える。


 あとは異世界定番の手押しポンプ……は腕が疲れるので、水のくみ上げには電動ポンプを使う。こっちの方が早いし楽だ。


 電動機モーターがあれば何でも出来る! 


 バッテリーも大量に作られるようになったので、基地内にもたくさんある。

 獣人達にもおすそ分けしたので、ポンプの動力は十分あった。


 水場とプールができて、人魚達が一番喜んで感謝していた。


 やはり水に浸かってないとダメらしく、長時間は陸にいられない。


「ありがとうございます。勇者様」


「いや、作ったのはドリスだから……」


 俺は何もしてないので、礼を言われるのは恐縮する。


 ただ亜人や人間達からすれば、機械技術を伝えた俺は尊敬すべき対象らしい。


 ヘスペリス側からすれば、機械が魔法で凄いのだ。


 それも電子書籍の内容なので、俺が考えたわけではないんだが……。


 まあ喜んでもらえるからには、期待にこたえねば男がすたる。


 いつものように教室で、知識をみんなに教えることにする。


 ていうか、エリックさんが戻ってくるまでやることがないのだ。作業はハブられるし……。


 教室はいつも満員御礼。


 最近作られたノートと鉛筆を持っている者もいる。今まではインクと羽ペンだった。


 黒板にチョークで書いてると、俺は教師になった気分になる。


 流石に教員免許は持ってません。はっきり言ってモグリです、はい。

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