第116話 教壇に立つしかない

 カン! と音を立てて矢ははじかれる。やっぱりボウ銃も効かないか……。


 それでも奴の首筋に、ほんのちょっぴり傷をつけることはできた。


「もう少し威力があればいけるか? うっ!」


「プオーン!」


 青い血が少し流れ、フタバ竜は怒ったようだ。俺達に赤い目を向けて襲ってくる。


 速い! 速い! 速い!


 俺の体感では、赤兜や鰐鮫のスピードを軽く上回っている!



「やばい! 逃げろー!」


「分かったわん! イシュクルの雷光!」


 ハイドラが電気を起こして、モーターをぶん回すとスクリューも回る。


 ただ、ボートの船首バウが浮き上がり、ややスタートが遅れた。


 スクリューを高速回転させすぎて、バイクで言えばウィリー走行になってしまったのだ。


 ボートレースではよくあることで、俺は船首を抑えておくのを忘れていた。

 

 まずい、追いつかれる――――!


「いでよ水精霊ウンディーネ! エアの散弾ショットガン!」


 シレーヌが精霊を召喚して、フタバ竜を攻撃してくれた。


 ただこれは援護射撃の目くらまし、奴を倒すにはいたらない。


 まともに水魔法を当てても効果がないと聞いていたので、豪雨のような攻撃を前もって頼んでいたのだ。


 精霊さん達は小さい水の玉を、休まずに連続で広範囲に投げている。

 まるで雪合戦。


 威力はないが両目を狙われたフタバ竜は、この攻撃を嫌がって目を閉じ、首を振り回して水散弾を避けようとする。


 奴がひるんだこの隙に、俺達は逃げるのに成功する。

 少し距離が離れると、フタバ竜は追ってくるのを止めて小島に戻った。


 どうやら縄張りから、離れたくないらしい。俺達はホッとする。


「……危ねー、フタバ竜は思ったより速いわ。あと一歩の所でお陀仏だった……サンキュー、シレーヌ」


「いえいえ、海彦さんが魔法の応用を教えてくれたからです。こんな使い方もあるんですね」


「海彦は銅線を使うことも、教えてくれたわん」


「……苦肉の策だけどな。さて基地に戻ろう」


「はいです!」


 帰港するまでの間、俺は奴とどう戦うか考えをめぐらす。

 あの速さと巨体でぶつかってこられたら、船は軽く吹っ飛ばされるだろう。


 船速が遅い帆船や鉄船で、不用意に近づくのは危険だ……すぐにやられる。


 ――となれば、機動戦をやるしかないな。


 だが皮膚の固さは想像以上で、仮に矢が当たったとしても、奥まで刺さらなければ致命傷は与えられない。


 大型弩砲バリスタは通用すると思うが、あれは重すぎる。


 ボウ銃連射戦法では倒せそうもなく、やるとしても近距離で撃たねばならず、これも危険過ぎる。


 こうなったら、新たな武器を作るしかない……気は進まないが。


 武器を作成している時間はおしいが仕方ない。世の中、急がば回れだ。


 あとは作戦を綿密に立てて、戦闘準備をするしかない。


 怪獣相手には、あの・・武器しかないだろう。


 港に着く頃、俺の考えはある程度まとまっていた。



 桟橋につくと、待っていたアマラに俺は頼む。


「アタワルパさんとエリックさんを会議室に呼んでくれ。あとテレサさんとみんなも!」


「分かった!」


 目にも止まらぬ速さで、アマラは駆けていく。


 すっかり体は治って、本来の高い運動能力を取り戻していた。


 俺はボートから降りて、クルーザーに入りノートパソコンを持ち出してから、基地内の作戦会議室ブリーフィングルームに歩いていく。


 俺が会議室に入ると、主立った者はすでに座って待っていて、後からも続々と中に入ってくる。


 俺は教壇に立ち、ノートパソコンを机に置いて立ち上げる。


 会議室は階段状の円形教室で、黒板とチョークがあり、大勢に説明するのには便利な場所だった。


 フローラ達は奥の方に座っている。亜人達は目が良いのでどこにいてもよい。

 人が集まった所で俺は話し始める。


「フタバ竜を見てきました。ハッキリ言って、このままでは勝てません。奴の皮膚は固すぎるので、新たな武器を作りたいと思います」


 俺の発言で教室はざわつくが、声はすぐに収まる。

 ここでパソコンを操作し、ある動画を再生して見せた。


「奴と戦うには、この武器しかないでしょう」


「おおっ!」


「これは凄い!」


 みんなが驚き、どよめく。


 会議はまだ始まったばかりで、話すことは多い。

 俺は黒板に下手くそな絵を描いて、作戦を説明していく。


 フローラに習いエルフ語は覚えたので、俺は文字も少しは書けるようになっていた。


 誰もが真剣に話を聞いてくれるのは、嬉しいものだった。

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