第115話 探検と偵察に行くしかない

 次の日からは、すぐに基地の建設に取りかかる。


 瘴気ミアスマの広がりは遅いが、徐々にニュクス湖は侵蝕されており、急ぐ必要があった。

 人間と獣人が協力して建設作業にあたる。


 大工や職人達が技能とコツを教え、習う獣人達はすぐに覚えていく。

 身軽で力もある獣人達のおかげで、工事ははかどって予定より早い。


 神怪魚を片付けたら、数十人ほどがアルザスに技能留学をするらしく、エリックさんとアタワルパさんが決めていた。


 獣人との交流の輪は広がっていく。



 基地建設の間、騎士団は近辺の防衛に当たることになるが、一部は密林の調査と探検に出ることになる。


 エリックさんは自ら行こうとしたが、流石に危険なのでみんなから止められた。


「おやめ下さい、王!」


「ちっ!」


「少しは自重して下さい、お父様。じゃー、私が代わりに……」


「もっとダメです! 雅様!」


 姫さんはミシェルから羽交い締めにされ、親衛隊も抑えにかかる。

 命しらずで困った親子である。


 結局、密林ジャングル探検と資源調査には、目利きと手練てだれの騎士が獣人の案内で行くことになった。


 武器の材料があればベストだが、人が使える物であれば何でもいいのだ。


 すでにコーヒー豆・香辛料・水晶や、宝石の原石などが発見されている。


 俺も日本人として嬉しい物を見つけており、ニュクス湖一帯は資源の宝庫だ。


 やはりエリックさんは強かな商人なのだろう。


 獣人との交易は将来にわたって、莫大ばくだいな利益をもたらすことになる。


 対等の取り引きであれば、お互いにWIN-WINになるので問題はない。


 獣人達も道具や機械の便利さを知ってしまったから、もう昔には戻れない。


 ……やっぱり俺のせいか?



 まあ、アタワルパさんも奥さん連中から、交易をするようにせっつかれたようだった。


 やはり『ぶらじあ』は偉大だな、うんうん……というのは冗談で、


 紡績機とミシンを幾つか進呈されれば、女性達はもっともっと欲しくなる。


 衣食住、特に着る物はすぐに作れないから大変で、毛皮もたくさんはとれないと聞いた。


 なので、布・糸・針は何よりも有難ありがたがられる。


 ミシンの使い方はフローラが丁寧に教え、獣人にも魔法使いがいるから、風力発電には困らなかった。


 ただ……最近、精霊さん達が俺をにらんでいるように見えるのは、気のせいだろうか?



 その俺も休んではいられない。建築工事ではハブられるが、やることはある。


 モーターボートでのニュクス湖の測量と、フタバサウルスの偵察だ。


 調査した結果、湖の形状はかすみヶ浦とほぼ同じで、幾つもの川とつながっている。


 変わった点と言えば、ニュクス湖の真ん中に小島があるくらいで、そこを奴が根城にしているらしい。


 偵察メンバーは俺の他にハイドラとシレーヌで、嫌がらせ攻撃をするつもりで、かなり近づいていた。


 奴は魚を食うのに夢中で、俺達は無視されている。


「今回の神怪魚ダゴンの略称はどうすんのん?」


「……あの首長竜に特徴はないから、もう『フタバ竜』でいいわ。名付けるのも面倒くせー!」


「あははははは!」


「じゃー、攻撃開始だ。ハイドラはいつでも逃げられるように、シレーヌも頼む」


「了解です。海彦さん!」


「じゃー、やるわよん」


 ハイドラが長弓を構えて、フタバ竜に矢を放つ。有効射程は約百メートル。


 エルフが撃てば二百メートル先からでも、普通の獲物だったら仕留められるし、外すことはない。


 ハイドラの弓の技量も並ではなく、見事にフタバ竜の背中のコブに命中……でも、矢は刺さらずに下に落ちた。


 奴はさして気にした様子もなかった……。

 恐らく小石がぶつかった程度で、痛みを感じることはないのだろう。


「……ホントに皮膚が固いようだ。かすり傷一つついてねー」


「私とアマラちゃんが、何度攻撃してもダメでした」


「ショックなのん。でも本番はこれからね」


「ああ」


 俺達は約五十メートルまで近づく、ここまでくると怪獣は目の前にいるようなものだ。


 迫力は満点、赤い目がハッキリ見えて恐い。


 これがテーマパークの怪獣アトラクションだったら楽しいが……悲しいけど、これって現実なのよねー。


「くらえ!」


 いつまでも見てると恐いので、やけくそ気味に俺はボウ銃を撃つ!

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