第113話 贈り物をして仲良くしたい

「勇者殿すまぬ、少しお待ち願おう――――アマラ! このたわけー!」


「ひっ!」


 父親が娘を怒鳴ると、大声で室内が揺れる。

 アマラは叱られてビビり、俺達もビックリしていた。


 家族の問題なので俺は口を出さない。実際、家出はよくないと思います、はい。


 それに婆さんがすぐに、アマラをかばった。


「まあまあ、許してあげてアタワルパ。アマラも村や人魚族のために戦ったんだから」


「しかし母上、我が娘とはいえ皆に示しがつきませぬ。勝手に村を出た罰を与えねば!」


「あら、村に勇者を連れてきたのは、立派な手柄でしょう。むしろ褒めてあげなきゃね。それとも、私の息子は何もしないくせに、孫を責めるだけなのかしら。いつまで、神怪魚を放置しておく気なの!」


「うぬぬぬぬ……分かりました、母上」


 母親から責められては立つ瀬がない。だ・け・ど、アレが相手じゃどうしようもねーだろ。


 何度も戦ったアマラとシレーヌは、よく生きていたものだ。

 俺はアマラの婆さんと、人魚の女性から礼を言われる。


「勇者殿、孫を助けてくれて本当にありがとう」


「いや俺は何もしてません。治療したのはホビットのロリエだし、世話をしたのも仲間達です」


「いえいえ、ここまで連れていただき感謝いたします。私はシレーヌの母、テレサです」


 俺が思った通りである。ちなみにテレサさんは胸に毛皮をつけていた。


 やはり獣人の村でも、胸や股間をさらすのはまずかったのだろう。



「……失礼した勇者殿、それで御用の向きは神怪魚の話でござるかな?」


「ええ、俺は気が進まないんですが……神怪魚ダゴンを倒さないと、いろいろと都合が悪いので、それで獣人族に御協力をお願いしたいのですが……」


 俺は下手に格好なんかをつけず本音を語る。もう愚痴に近い……戦う意欲は下がったままだ。


 ここからが交渉の本番だ。さて何と言われることやら……。


「村をあげて御協力させていただく。何なりとお申し付けくだされ」


「えっ!?」


 逆に、アタワルパさんとテレサさんから頭を下げられた。


「実のところ神怪魚には、ほとほと困り果てていたところでござる。貴奴は弓も槍も通じぬ、魔法も効かぬ化け物。瘴気ミアスマは広がる一方で、ニュクスの湖から去ろうかと思っていた次第でござる。しかし、勇者殿が来て下されたのはこれ幸い。是非、お力添えをいただきたい!」


「私からも、お願い申し上げます」


「わ、分かりましたので、二人とも頭を上げてください!」


 拍子抜けである。やっぱり相当困っていたようだ。あの首長竜が相手じゃ無理もない。


 恐らく、うろこか皮フかは分からんが、厚くて頑丈なのだろう。


 となるとボウ銃も効かないかもしれない。やれやれ、どうするかな?


 まあ取りあえず、話はまとまったので俺は安心する。あとはアルザス軍を呼べばいい。

 目的が同じであれば、獣人族ともめることはないだろう。



 さて、贈り物はどうしよう?


 交渉材料にしようと思っていたが、使わずにすんでしまった。


 今後の交流を考えたら、心証は良くしておくべきなので、差し上げることにする。


 持って帰るのも面倒だし、多少重いのだ。


 俺は背負ってきたリュックを下ろし、手前においた。


「実はお近づきのしるしとして、贈り物を持ってきました」


「これはかたじけない。それで中身は……」


「『ぶらじあ』と『ぱんてい』だ。いい物だぞー!」


「こら、アマラ! 口を出すんじゃありません!」


 祖母に叱られてアマラはしょげる。

 孫のしつけとしては正しく、甘いだけの婆さんではなくて感心する。


 俺がアタワルパさんに説明すると、軽く笑われた。


 女性下着を贈り物にしたのは、ある教訓からきている。


 ――人に物をあげるなら、魚をやるより竿をやれ、作物よりもくわをやれ。


 道具の方が、ずっと使える物だからである。


 そして! 男に酒をやるよりも、女性にお菓子をやれ。


 いつの世も、女性のハートをつかんだ者が勝利する!


 いくら旦那が強くて偉くても、決して嫁には勝てないのだ!


 というわけで獣人女性をまるめこむべく、女性下着を持ってきたのだ。



 ……あれ? だんだん俺の性格が悪くなってきたような……ああ、薄汚い大人にはなりたくなかったはずなのにー……しくしく。


「ありがたく頂戴する。では母上、奥へ案内してやってくだされ」


「ええ、じゃーみんないらっしゃい」


 ここからは実務者協議になるので、女性陣は席を外してくれた。


 アマラがリュックを持ち、ハイドラもついて行く。


 部屋の奥に引っ込んだのだが、下着に大騒ぎしてやかましかった。

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