第112話 獣人村を訪問するしかない

 俺が見たのは首長竜で、しかもでかい。体長十メートル以上はありそうだった。


 今までの神怪魚も化け物だったが……あれはもうじゃねー! 怪獣・・だ!


 あんなの倒せるかー! 俺は○○トラマンじゃねー! 変身なんかできるかー!


 俺がギャーギャー大声で叫んでも、女達は相手にしてくれない。


「……勇者は大丈夫なのか? フローラ」


「いつもの発作よ。あと変な踊りもおどるけど、気にしなくていいわ。何だかんだ言っても、海彦は必死で戦うから」


「そうなんですね」


「だわさ」


 化け物の相手をさせられる、俺の辛さは分かってもらえない……しくしく。


 ひとまず神怪魚から離れて、俺達はアマラの村へと向かうことにする。



 ただ村の近くには、接舷せつげんできる場所が見当たらなかったので、クルーザーを停めて小舟で移動することにした。


 電動モーターボートを動かすのはハイドラ。


 念のため、他のみんなには待っててもらう。


 あとは俺とアマラが小舟に乗り、シレーヌはつかまって泳ぐ。


「これは楽ちんです!」


「じゃー、もっと飛ばす?」


「振り落とされるから、やめてくれー!」


 どうもハイドラはスピード狂らしく、陸地でもバギーを思い切り飛ばすので始末が悪い。


 風を切り駆け抜ける爽快感がたまらないようだ。乗せられる俺からすれば心臓に悪い。


 やがて小舟は浅瀬に上陸して、俺達は降りて歩きだす。


 俺は贈り物を入れたリュックを背負っていた。これが交渉の鍵である。

 近くにまで来ていたので、すぐに獣人族の村は見えてくる。


 木の枝の柵に囲まれた場所があり、二人の門番がいた。

 俺達に気づき、男の獣人が駆け寄ってくる。


 毛皮を着てボディペイントをしているのは、アマラと変わらない。

 ただ槍を持っていたので、俺はビビり思わずナイフに手がかかる。


 すぐにアマラが前に出てくれたので、争いになることはなかった。


 門番もすぐに気づいたようで、名前を呼んだ。


「アマラ!」


タタに会わせてくれ」


「分かった」


 一人が知らせに走り、残った一人に村を案内される。思ったよりは警戒はされなかった。


 家は高床式、木と石を重ねて作られていて、それほど原始的ではない。


 屋根は草ぶきだが、一部はかわらが使われている。


 陶芸が盛んなのだろう。周りを見れば陶器を持った獣人達が、俺を珍しそうに見ていた。


 ああやっぱり、異界人はパンダですね。それでも敵意を向けられないだけましだろう。


 獣人の子供らは、笑いながら俺に近寄ろうとするが、親から止められていた。


 やがて俺達は大きな家の前につく、恐らく長老宅だ。アマラはうなずく。


 木の階段を上がり、麻布のしきりの前で俺は緊張する。いよいよ御対面なのだ。



 深呼吸をしていると、


「入られよ、お客人」


「失礼します」


 声に従い中に入ると、床には毛皮がしきつめられていたので、俺は靴をぬいであがった。


 正面にいるのは三人。


 低い腰掛けに座って中央にいるのが、獣人族の族長だろう。


 背はさほど高くないが、引き締まった体つきをしていた。


 無駄なぜい肉がない分、強さに加えて俊敏しゅんびんさがあると俺は見た。


 獣のような瞬発力があるとすれば、他の族長達より強いかもしれない。


 他に目立った点といえば、頭に羽根飾りがあることくらいで、族長の証だと思う。


 左にいるのは老婆で、ニコニコと笑っている。さほど老けているわけではない。


 アマラを優しい目でずっと見ているので恐らくは、アマラの祖母だ。


 右にいるのは青髪の美人だが、族長の奥さんではない。


 なぜなら、水をいれたタライに入ったまま、尾ひれをだしている人魚だからだ。

 たぶんシレーヌの母親だ。二人がばつ悪そうな顔をしているので間違いはない。


 俺とハイドラを除けば、家族が集まったと言える。


 俺達は客用の花ござの上に座り、挨拶をする。


異界人エトランゼの幸坂海彦と申します。こちらはダークエルフのハイドラ」


「よくぞ参られた勇者殿。拙者が族長のアタワルパでござる」


「へっ!?」


 なんで武家言葉やねん! 獣人がしゃべるとシュールすぎるわ!

 

 ああ女神様、通訳おかしいよ? なにやってんのー!!


 心の中で、俺は叫ぶしかない。


 文句をつけても状況は変わらず、少しもめることになる。

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