第102話 戦の準備をするしかない

 俺とエリックさんは長い時間話し合った。

 百科事典を漁り、他にも使えそうな武器や戦法などを、全てプリンターで紙に印刷する。


 戦争となれば、「準備しすぎ」ということはない。

 それに勝てるとは限らないので、最悪の事態も想定しておく。


 夜遅くまでかかったので宮殿には戻らず、俺達はそのままクルーザーに泊まることにした。

 遅い夕飯を二人で食いながら雑談をしていた所、


「ところで海彦殿は、大人の上映会を開こうとしておったようじゃが……」


「ええ、亜人の村ではことごとく失敗しました……見ますか?」


「うむ!」


 観客は王様一人だけではあったが、エ○ビデオ観賞……もとい、大人の上映会は初めて成功した。


 そうだよなー、個室でやりゃーいいんだよな、誰にもバレないわ。


 ちなみにタイトルは、「クリーニング、○○ちゃん」。


 かつてビデオデッキVHSの普及に貢献したとされるキラーソフトである。


 王様……いや、エロオヤジは満足してくれた。



 次の日から、いくさの用意は始まる。


 とは言っても俺は直接関わらないので、いつものように電子書籍の通訳をして、現代知識をみんなに教えるだけだ。


 村よりは人が多いので教室が作られ、人間や亜人と子供達も聞きに来るようになる。

 俺の現在の職業は講師。


 空いた時間には無線で異界人に呼びかけていたが、返信はない。

 すぐに反応があるとは思っていないので、根気よく呼びかけを続けるつもりだ。


 あと俺は確認のため、ロリエに未来を占ってもらった。


「……魔物の群れが襲ってくるのは間違いないわ、海彦お兄ちゃん。何時いつかはわからないけど、近いうちに必ず来るわ。それと勝敗の鍵はお兄ちゃんが握ってるみたい」


「そうか、俺の行動次第か……」


「うん、未来は人の選択で変わっていくの」


 ロリエから聞いて、俺は本気になる。

 魔物が亜人の村に攻めてくる可能性もあり、フローラ達が殺されるかと思うとゾッとする。


 そんなのは絶対に見たくない!


 運悪くヘスペリスに来たとはいえ、世話になったのは確かだ。その恩は返さねばならない。

 今のうちに、とにかく準備するのだ。

 

 籠城ろうじょう――城や塔に立てこもるとなれば、やはり食料の備蓄がなくてはならない。


 干物・燻製くんせいだけでは心許こころもとなく、長期保存にはクルーザーにもあるアレが必要だった。


 生活にはかかせない家電、「冷凍冷蔵庫」である。


 そこでドリスから電話で、エリックさんに製作を頼んでもらうことにする。

 もうアルザスと村々との電話回線はつながっていた。亜人達の仕事は早く、鉄道の開通も近い。


「チャールズさん、引き受けてくれた?」


「うむ、父様ととさまは承諾してくれた。もう冷蔵庫は作っていたのじゃから問題ない。ただ、愚痴をこぼされたわ……」


「何て?」


「『家電品の改良ばかりやらされて、儂の作りたい物がさっぱり作れん。カカアめー!』じゃと……」


「……まあ奥さんはわがままだからなー。でもチャールズさんの技能は凄いから、頼るしかないんだ。励ましてやってくれドリス」


「わかったのじゃ」


 数日もすると、ドワーフ村から蒸気圧縮冷凍機が運ばれてくる。

 ドワーフ職人も金型を持って来てくれた。

 冷媒れいばいガスがまだ無いので、今は空気を使って循環させる冷凍機械だ。


 圧縮機を動かすのに、電動機式と蒸気タービン式の二種類が用意された。


 早速、ハイドラとリンダが精霊召喚して使ってみると、


「冷えるー! 気持ちいいわん!」


「やっぱり、冷凍は便利だわさ」


 冷凍機にはもう一つ利用目的があった。それは「氷」を作ることである。


 宮殿地下の氷室ひむろを拡大して、氷を使って食料を貯蔵しておくのだ。

 鮮魚や生肉は腐らずにすみ、地下室は冷たいので機械がなくても保存できる。


 冷凍機は増産されて、やがて一部の漁船にも取り付けられる。

 氷は民間にも出回り、ある食べ物となる。かくはん機と冷凍庫の副産物だ。


 かき氷とアイスクリームの誕生。


「つめたーい! 美味しーい!」


 チョコレートを加えれば、女達は食べるのにもう夢中だ。


 アルザスでアイスクリームは飛ぶように売れ、いくら作っても足りなくなる。


 それと同時に、アイスティーも広まっていく。


 何せアルザスは南方なので毎日が暑くて喉が渇く。季節も夏といってよかった。


 ……まあ腹を壊す者が続出するのは、ご愛敬あいきょうである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る