第101話 王様に頭を下げられたら協力するしかない
「昔……山川草木が豊かな小国があった。まあ国というには小さく、村といってもよい。それでも自然の恵みのおかげで誰も飢えもせず、民と王は楽しく暮らしておった。じゃが何百年かが過ぎると……」
エリックさんは、お茶を飲んで一息つく。
「世界の人口が増え、大国が生まれると平和が終わった。軍隊によって攻め込まれたら、小国などひとたまりもない。占領されて支配されるだけなら良かったが、すぐに別の大国が攻め込んできて、国土は戦場となり荒らされ、男は殺され女子供はさらわれた。無力な小国の王は何もできず、焼け落ちていく国を見てるしかなかった……」
「…………」
エリックさんの過去の話を聞かされ、俺は心底同情する。
その当時、どれだけの痛みや苦しみがあったのかを思えば、気の毒でしかたない。
俺は貧乏で不幸だと思っていたが、エリックさんはそれ以上である。
こんな目にあっては、心はとても耐えられない。
「そして愚かな王は、『消えさりたい』と神に願う。すると景色が変わり、いつのまにかヘスペリスにいた。それから儂は神怪魚を倒し、性懲りもなくまた国を作った……」
「……そうでしたか。でもエリックさんの作ったアルザスは、すばらしいですよ。地球上でも、これほどの楽園はありません。お世辞抜きでそう思います」
「そう勇者殿に言ってもらえると嬉しいのう。となれば国は絶対に守らねばならん。二度も民を失いたくはない、殺させてはならない! それには『武器』がいるのだ。海彦殿、協力してくれんかのう?」
「うっ! それは、ちょっと……」
生活に役立つ物なら教えられるが、戦争には関わりたくないのが正直な気持ちだ。
エリックさんに世話にはなったが、流石に「うん」とは言えない……あれ?
俺は気になったことを質問する。
「一体、何と戦われるんですか? 亜人じゃないですよね? 戦う理由がない。敵は誰なんですか?」
「魔物じゃよ」
「えっ!」
「
「…………」
ロリエの占いは当たるので、否定したりはしない。
かと言って武器作りにはやはり抵抗がある。
魔物ではなく人に使われる可能性があるからで、知らぬ存ぜぬでは済まないのだ。
エリックさんは信用できるが、将来に暴君が現れたら住民は弾圧されるだろう。
だが魔物の大群がくるのでは、武器がなければ戦えずに人間は皆殺しにされる……どうしたらいいんだー!
俺は悩んだ末に、協力することに決めた。ただし条件をつける。
「……分かりました。だけど一つだけ、お約束してください。それは……」
「うむ、海彦殿の心配は分かっとる。決して武器を民衆や亜人に向けたりはせん。それと戦が終わったら、武器は全て廃棄する。少し残すにしても亜人達に預ける。儂の命にかけて誓おう!」
一国の王様に頭を下げられて、俺は承知した。
「それで十分です」
「すまんのう海彦殿、お主は争い事は嫌いなのに、巻き込んでしまったな」
「いえ、ヘスペリスに来たのは偶然ですが、みんなを見捨てたりしたら後味が悪い」
「早速じゃが『鉄砲』ではない、武器はないじゃろうか? 作るのも面倒じゃし、火薬の材料が少ししかなく大量には作れん。威力はあるかもしれんが、どうせ精霊の盾は撃ち抜けんしな」
「エリックさん鉄砲や大砲は知ってたんですね? 確かに火縄銃じゃ連射もきかないし、雨にも弱い。ボウ銃の方がマシですね」
「うむ」
自動小銃や弾丸を作るには、まだまだ技術が足りない。
無煙火薬を作るにしても、化学薬品が必要だった。
ボウ銃で試したことがあるが、「ナイアスの守り」は破れず、魔法使いの魔力切れを待つしかないのだ。
その間に攻め込まれたら飛び道具は使えなくなり、肉弾戦になるだろう。
魔物の数が多ければ苦戦は必死だ。
戦いは数だよな! 弟よ!
なにか遠距離から倒せる武器が欲しいところだ。
火薬を使わずに発射する装置……ある!
俺は百科事典を開いて、エリックさんにある動画を見せた。
「おおっ!」
「コレを元にして、発射武器を作ってみたらどうですかね?」
「ああ、これなら勝てる。ボウ銃と組み会わせれば、どんな大軍も近づけまい!」
「それと、
「うむ、重騎兵は少ないから、かなり助かる。いやはや、海彦殿には助けられっぱなしじゃのー、恩賞には何がよいかのう。そうじゃ! アルザスを全部やろう、雅つきで!」
「ぶっ! 勘弁してくださいエリックさん。王様になる気はありません」
「そうか、残念じゃ。お主なら儂の後を任せられるんじゃが……」
結局この爺も、娘をあてがう気が満々じゃねーか!
国を押しつけられたら、たまったもんじゃない。面倒くさくて統治なんてやれん。
無理をしてでも、絶対に俺は日本に帰る!
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