第31話 なにもさせてもらえない

 それから、エルフ族を始め亜人の集団が、女神の湖に集まってきた。

 総指揮をとるのは、ロビンさんだ。代表者が集まって計画を立てる。


「まずは、舟作り小屋……では小さいから、造船所を建てるべきじゃな」


「木材がいるのう。この近くの木を切って、宿泊所も建てるとするか」


「鉄も大量にいる。鉱山のドワーフに頼まんと」


「村々の馬車をすべて使って運ぼう」


 ……大事おおごとになってしまった。


 これを日本でやったら、幾らかかるか想像もつかん。

 労働力に資材に、毎日の食料。とても払えるもんじゃない。


 俺は「船作り」の大変さを知り、軽く考えていたことを悔やむ。

 恐る恐る、ロビンさんに聞いてみると……


「なーに、最初に言ったはずじゃ、必要なもんがあれば用意すると。勇者殿は何も気にする必要はない。儂らにまかせておけ」


「海彦でいいです。じゃーせめて、俺にも手伝わせてください!」


「いやいや、神怪魚と戦う前に怪我でもされたら困る。それとも海彦殿は、大工の経験はおありかな? 木こりは?」


「……いえ、ありません。バイトは雑務だったので」


「ならば、休んでられるといい」


「……はい」


 やんわりと断られた。ド素人に現場をウロウロされたら、邪魔になるのだろう。

 それは分かる。でもさー、一人でのんきに昼寝はできん。

 サボっているようで、俺は罪悪感にむしばまれる。


 建築作業は着々と進んでいく。部族間の連携が見事だった。

 力仕事はオーク、細かい作業はエルフ、ホビットは身軽なのでとび職。


 鍛冶場も作られることになり、耐火煉瓦が馬車で運ばれていた。

 その煉瓦積みもさせてもらえず、俺一人だけが手持ち無沙汰だ。


 もうー我慢できん! 俺は女性達のいる場所へと向かう。


「エイルさん、俺にも何かやらせて下さい。何でもします!」


「大丈夫ですよ海彦さん。炊事の手は足りてます。食事ができるまで待ってください」


「そうそう、海彦は戦うことだけ考えていればいいのよ。勇者なんだから」


「……うう」


 父親ばかりでなく、母と娘にも断られてしまった。

 俺が入り込む余地がどこにもない。うわーん!


 俺は泣きながらクルーザーに戻った。ただ、ふて寝する気はない。

 神怪魚の前哨戦とばかりに、竿を持ち出して湖に向かい、陸釣おかづりを始めた。


「ちくしょう!」


 怒りにまかせて、竿を振ってルアーを遠くに飛ばす。

 リールを巻いて、ロッドをしゃくっていると、すぐに当たりが来た。


「おおっ!」


 直ぐさま竿をひき、ハンドルを素早く回す。

 ロッドはしなり、道糸ラインがピンと張る。


 魚はジクザクに動き暴れ回った。手応えから、まあまあの大きさだと分かる。

 時間をかけて魚を弱らせ、俺は釣り上げた。


「イワナみたいだ。でもかなり大きいな」


 異世界の生態系が、日本とは違うのだろう。なので、形はあまり気にしないことにする。


 クーラーに魚を放り込み、気をよくした俺は釣りを続ける。

 竿をふって、ルアーが着水すると、またすぐにヒットした。


「入れ食いかよ!」


 俺は次々とかかる、魚を釣り上げていく。


 後で気づいたが、神怪魚から逃げてきた魚が、浅瀬に集まっていたのだ。

 俺は大漁に喜んだが、


「しまった! 釣りすぎた。これ全部、食えるのか? ……無理」


 クルーザーに冷蔵庫はあるが、とても入りきらない。

 仕方なくエイルさんのとこに、持って行くと喜ばれた。


「食べられますか?」


「これは助かります。どれも美味しいですし、みんなで食べたら、すぐになくなりますよ。炭火で塩焼きにしましょう」


「お願いします」


 夕食時、串焼き魚が全員に配られた。

 俺もかじりつき、頬張ほおばってみると、


「うめえ――!」


 泥臭さもなく、身が甘くホクホクとしている。

 どの魚も良い香りと、良い味がしており、みんなが夢中で食べている。

 エイルさんの調理も見事だ。


「ありがとう勇者!」


「また釣ってくれ。食うと、やる気がモリモリ出る」


「ああ、分かった!」


 俺は皆から感謝されて、涙が出た。


 こんなに嬉しいことはない!


「俺にはまだ、やれることがあるんだ……」


 人の役に立って褒められるのは、やはり気持ちが良い。


 自分の存在意義レーゾンデートルが、感じられるからだろう。


 ただお魚さんには悪いから、後でほこらを建てて供養しようっと。


 合掌。

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