第30話 船をつくるしかない

 俺はフローラに、悪戯いたずらすることにした。


「グゴゴゴゴ――!」


 またイビキをかいて、気持ちよさそうに寝ている。

 やはり処女の乙女とは思えない。寝言もひどい。


「むにゃ、むにゃ、ステーキ十枚追加よ海彦。早く焼きなさい……」


「ふざけんな!」


 流石に頭にきた。仕返しに顔を引っ張ったが、フローラは起きない。

 揺すっても、軽く叩いても眠ったままだ


 そこで俺は、言葉で攻めることにした。耳元でささやく攻撃は、効果があるだろう。


「フローラぁ、起きないと体中をまさぐるぞー、触りまくるぞー? いいのかー? アレをやって、コレをして、ついでに……もさせて、そして最後には、ひっひひひひ!」


「キャアアアアアアア――!」


 フローラは目を見開き跳ね起きた。俺を見るなり眉をつりあげて、殴りかかってくる。


 ふっ、甘いな。


 パンチを見切って、俺は避ける。


 一度見た技は俺には通じん! と思っていたら――


「ふごおおぉー!」


「近寄るな変態! スケベ! 強姦魔!」


 枕やクッションを手当たり次第に、投げつけられた。

 壊れそうな物が、近くになくて良かった。


 蹴っ飛ばされた挙げ句に責められる。何て女は理不尽なんだろう。

 そしてまた、口喧嘩となる。


「お前が起きないのが、悪いんじゃないか!」


「起こし方が悪いわ!」


 昨晩、和解したのが夢のようだった。俺とフローラとの相性は悪いらしい。

 フローラは着衣に乱れがなかったので、俺が襲ってないことは理解している。


 ただ自分の非を認めたくないので、ヒステリーになっているのだ。


 ……これが、若さか。


 結局、俺が引いて喧嘩の幕を下ろすしかなかった。


 異世界の女は従順で、やりたい放題と言った奴は出てこい!


 大嘘じゃねーか!


 朝食はカップ麺で済ませた。とても作る気にはなれなかった。

 しょぼい食事に、フローラはブーブー文句を言ってたが、俺は取り合わない。


「まあ、これはこれでいけるわね」


 それでも食うときだけは大人しい。

 お互いに落ち着いてから、行動を始める。


「フローラは村に戻って、ロビンさんに話をつけてくれ。俺はリンダのとこに行ってくる」


「何をする気なの?」


「鉄には鉄で対抗する。鉄の船を作ろうと思う」


「はあ――!? あんたバカー? そんなの沈むに決まってるじゃない!」


 俺はイラッときたが、無知なのを考慮して我慢することにした。

 言い返したら、また喧嘩になる。


 一目瞭然、論より証拠。俺は鍋を取り出して、フローラについてくるように言った。


「どこに行く気よ?」


「いいから、見てろ」


 クルーザーの後部甲板デッキから、鍋を湖水に静かに置くと、見事に浮いた。


「なっ!?」


「こういうことだ。金属を薄くのばせば、浮力が発生して水に浮くんだよ。もちろん中に水が入れば、沈むけどな」


「……し、知らなかった」


「分かったら、ロビンさんに言ってくれ。『鉄船』を作りたいと」


 コクコクとフローラは頷き、村に急いで向かった。

 俺もリンダのとこへと行き、話をすると驚かれた。


「鉄の船……これは、いきなりだわさ……」


「神怪魚ダンクレ……いや、『赤兜』に対抗するには木造船では無理だ。かといって鉄だけで作るのは無理だから、木鉄交造船になると思う。やってくれないか? リンダ」


「いいよ、オークの村総出で手伝うよ」


「ありがとう」


「感謝するのは、あたいの方さ。これは面白くなってきたわ!」


 リンダはウキウキしてるようだった。

 面倒な仕事のはずなのに、嫌がらないのが不思議に思う。


「なんで?」


「ここの平和なだけの生活に、若いあたしらは飽き飽きしてるんだよ。湖から遠くには出られず、毎日毎日同じ事の繰り返し、ストレスが溜まっているのさ。だから海彦の提案は、たまらない刺激なんだよ。これは大きな変化だ!」


「なるほどな、田舎に何もないのと同じか……」


 事が済んだら、遊びでも教えてやろう。クルーザーに遊び道具もあるのだ。


 ビーチフラッグだったら負けんぞー!

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