第28話 精霊さんはしんどい
「おーい、フローラ! 生きてるかー! いい加減上がれー!」
「……うー、わかったわ」
長湯になるのは最初から分かっていたので、文句は言わない。
それよりも、風呂でのぼせて倒れられるのが、一番まずいのだ。
介抱しようものなら、フローラの裸を見る事になってしまい、また騒ぎになる。
案の定、下におりてくるフローラの足取りは、おぼつかなかった。
フラフラしており、忠告して正解である。
頭にバスタオルを巻き、バスローブを着てる姿は色っぽかった。
湯上がり肌はつやつやしており、白い肌も朱色になっているので、かなり割り増しで美しく見える。
これで性格がよかったら、と思わざるを得ない。
「そら、水だ」
「ゴクゴク……ありがと、もう少し入ってたかったー。これは確かに最高の快楽ね。海彦が『風呂はいいぞ』と言った意味がよくわかったわ!」
「理解してくれてなによりだ。ただ、長湯はだめだ。風呂で死んだら洒落にならん。あとはドライヤーで、髪を乾かして……」
「それは必要ないわ。シルフよ、風を起こしたまえ!」
「えっ!?」
船内に風が吹いた。風力は扇風機ほどあり、かなり強い。
俺は魔法を間近で見ることができた。
フローラのそばに人の形をしたものが、たくさん集まっている。光る精霊だ。
体色は緑、身長は数センチ。服は着ておらず、小さな羽で飛んでいる。
俺は可愛らしく思えた。
「これが、精霊魔法というやつか? やっぱりすげーな」
「そうよ」
「どうやって、風を起こしてるん…………て、まさか!?」
俺は精霊の秘密に気づいてしまった。
扇風機なら羽根車をモーターで回すだけの話だ。
だが精霊の場合、一匹一匹が必死で仕事をしている。
なんと、精霊は手に
「ヒー、ヒー!」と苦しそうな声が聞こえてくる。
それだけではない。息を目一杯吸い込んで、口から吐いている精霊もいた。
「すう――――! はあああ――――!」
顔を真っ赤にしての、ふいごだ。かなり辛そうである。
精霊達の集団によって、魔法が成り立っていた。
「……もしかして魔法というより、精霊による人海戦術なのか?」
「私の魔力を対価に、働いてもらってるのよ」
「…………」
こき使われてるようで、精霊が可哀想に思えてくる。
フローラは気にしたふうもなく、風を受けて髪を乾かしていた。
まるで、「お金を払ったから、奉仕しなさい!」と言ってる穂織のようだ。
「機械の代わりに働く精霊か……」
フローラはホワイトカラーで、
自分と重なる部分があり、つい同情してしまう。
ブラックバイトでないことを祈りつつ、俺も風呂に入ることにする。
フローラの甘い臭いが、風呂に残っていた。
入浴後、俺達は外に出て、星を一緒にながめる。
地球の星座とは全く違うので、フローラに教えてもらった。
これで方角や時間、季節を知ることができる。船乗りなら必要な知識だ。
体の
俺達はベットに一緒に入る。薄明かりの中でも、互いの姿は見えていた。
フローラは寝間着の浴衣を着ている。元は穂織の物でも、サイズはピッタリだ。
本当に別世界の穂織なのかもしれない。
俺もクルーザーにあった、男用の浴衣を何とか着ていた。こっちは大きくて合わない。
「おやすみ」
「ええ……」
俺達は寝ることに……寝られるわけねーじゃん!
ダークエルフの村の時とは違い、完全に二人きりの状況では、目は冴えてしまう。
俺は悶々として、眠ることはできなかった。心臓がドキドキのバクバクです!
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