第26話 クルーザーはすごい

「理由は以上だ。分かったら帰ってくれ」


「食事はどうすんのよ?」


「魚でも捕って食うさ。あの近くで取れる木の実も教えてもらったし、麦もエイルさんからたくさん貰ったから、心配ない」


 俺はズタ袋を背負っており、中には麦が入っていた。

 それと、食い物のあては他にもある。

 

「湖の水はそのまま飲んでいいようだし、生活水には困らない。場合によっちゃ浄水器にかけるさ。排水は道路の即溝を利用させてもらって、湖は汚さないようにする」


「それでも、煮焼きする鍋や釜はないでしょ? 食器はあるの? かまどはなかったし、炎の精霊サラマンダーか薪がないと火はおこせないわ。アンタ一人で生活するなんて無理よ、無理」


 しつけえー!


 仮に俺が生活できなくても、お前に関係ないだろ?

 揚げ足をとりたいだけなのか? 何をしたいのか、さっぱりわからん。


 とにかく自分が納得しないうちは、村に帰る気はなさそうだった、

 口でフローラに説明しても分かるまい。こうなったら、一通りやってみせるか。


 夕方ごろには着くので、俺は飯を食わせてやる事に決めた。


「全部、クルーザーにあるんだよ。船自体がホテルか、豪華な一軒家のようなもんなんだ。中にある機械を使って見せるから、納得したら帰ってくれ」


「……わかったわ」


 これでようやく、フローラは黙った。俺達は無言で、クルーザーへと向かう。


 聞こえてくるのは、風の音と足音だけになった。


 会話はなく雰囲気は悪いので、これはデートではありません。

 船に到着して、ようやく重苦しい空気から解放される。


 昨日はさらっとだけ見たが、やはり大きいクルーザーだ。


 全長は十八メートル、船幅は七メートルほどだ。


 真新しい白い船にさびなどはなく、美しい。まあ一部凹んでるが……。

 メインデッキには泡風呂ジャグジーまである。


 ロワーデッキにおりると、キッチンと調理道具、電化製品がそろっていた。

 奥にはベットがあり、広々とした空間で立ったまま歩ける。


 普通はしゃがんで、中を進むしかない。叔父のボロ漁船とは比べものにならなかった。


 もう壊れて無くなってしまったが……あの後どうなったかなー。


 食料の備蓄もかなりあり、真空パックと缶詰めの種類が豊富だ。

 これでしばらく、食うことには困らない。

 

 二階のデッキは狭いが、ソーラーパネルがあり太陽光発電が可能。

 電気が得られるのは、何より有り難い。バッテリーにも貯めておける。


 他には海水から真水を作る造水器もあった。

 海で遭難しても、船で生活できるように何でもある。


「……何を言っているのか、さっぱりわからないわ」


 一応、フローラに説明はしたが、ちんぷんかんぷんと言ったところか。

 俺だって、道具の使い方を知ってるだけだ。詳しい仕組みは知らん。


 よし、夕飯を作ることにしよう。自活できることを見せてやる!


 キッチンに向かい、フライパンなどを取り出す。


「この台がかまど? 火がいらないですって? あり得ないわ!」


「これはIHといって、電力のみで動作する電磁調理器だ。鍋やフライパンが加熱されて、温まる。試しに肉を焼くから見てろ」


「ふんだ」


 フローラは完全に疑っている。

 俺は真空パックの封を切り、ステーキを二枚、皿に取り出した。


 味付けはしてあるようなので、フライパンに油をひき、スイッチをいれる。

 少ししてから、ステーキをフライパンに入れて焼き始めた。


 ジュージューと音を立てて、肉の焼ける良い臭いが広がる。

 俺はターナートングを使い、肉をひっくり返す。


「うそ!? 焼けてる!」


 フローラは目を丸くして、調理をじっと見ていた。

 不思議そうな顔をしており、目の前の出来事が信じられないのだろう。


 俺からすれば、魔法の方がすごい。


 焼き加減はミディアムにして、火を止めて皿に盛る。付け合わせはコーンだ。

 肉だけではもの足りないので、ご飯をレンジで温める。もちろん真空パック品。


「なに? その箱!?」


「これも調理器だ。電子レンジといって食い物を温められる。ただ金属はいれたら駄目だ。前にアルミホイルをつっこんで、うっかり燃やしたことがある。あん時は偉い目にあった」


「こんな、カラクリがあるなんて……」 


 どうやら、「機械」という言葉はないらしい。

 短時間で料理してみせたので、フローラはカルチャーショックを受けただろう。


「文明の利器、スゲーだろ!」などと自慢するつもりはない。


 俺自身、システムキッチンなんぞ、生まれて初めて使ったのだ。

 バイトした飲食店でも、ここまでの設備はなかった。


 このクルーザーがいかに高いかが分かる。値段はおそらく、数億円は下らない。


 飯ができたので、俺はフローラと食うことにする。

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