第25話 エルフ村を出るしかない

「そうだな、村に帰るとするか――おっ! ととととと!」


 俺はつまずき転びかける。これは天罰かもしれない。

 顔に冷や汗が流れた。


「なんの! これしき」


「もう、なに遊んでんのよ!」


 受け身をとって、砂の上に倒れたのでダメージはない。

 立ち上がろうとした時、俺の目に光る物が映った。錯覚か? いや違う!


 目を細めてよく見ると、青葦あおあしが茂る場所に何かがある。


 俺は一目散に駆けだした。


「ちょっと、どこ行くの!? 待ちなさい!」


 フローラの制止する声は無視し、俺は走るのを止めない。

 もしかすると! ある予感と期待があった。


「はあ! はあ! はあ! やっぱりあった、あったぞー!!」


 全力で走り息も切れ切れになるが、目当ての物を見つけた。

 俺は大喜びして、ガッツポーズのあとに踊り出す。豊漁踊りだ。


「ソーリャ~トーリャ~コーリャ~すっとこドッコイショ♪」

 

「…………アホね」


 フローラは白い目で俺を見ていた。何とでも言え。

 それだけ俺は嬉しくて、はしゃぎたかった。


 なにしろ、神怪魚に対抗する手段が見つかったのだ。


 女神様ありがとうございます。文句を言ってすみませんでした。


 これは有り難く使わせていただきます。感謝、感謝!


 これなら勝てる! 神怪魚に勝てる!


 俺が踊りを止めると、フローラは怪訝そうに聞いてくる。


「それで何よ、この船?」


「クルーザーといって、大物を釣るための船さ。しかも最新型の超高級品! 俺が一生働いたしても買うことはできない!」


「ふーん」


 俺が見つけたのは、穂織のクルーザーだった。

 あの時、神怪魚と一緒に霊道アウラに吸い込まれたのだろう。


 俺は早速乗り込んで、内部なかを調べてみたが誰もいなかった。

 やはり、へスペリスに来たのは俺だけのようだ。


 クルーザーを調べていくうちに、少しガッカリしたが、気を取り直す。


「まあいい。これだけあれば何とかなるはず……」


 しばらくしてから、俺達はエルフの村に帰った。


 翌日、俺はエルフの村を出ていく。


 ロビンさんと、エイルさんには引き留められたが、俺の決意は固かった。

 クルーザーを見つけたので、そこに住むと決めたのだ。


 世話になりっぱなしでは、居心地いごこちが悪い。


「とりあえず何かあったら、またお世話になります」


「そうか……いつでも戻ってきてええぞ」


 挨拶もそこそこに、クルーザーのある場所へと向かった。

 これでせいせいする……と思っていたら、フローラは俺の後をついてくる。


 もう用はないはずだ。今更つきあう必要もない。


 いつまでも経っても、帰るそぶりがないので、俺は振り返った。


「どこまで、ついてくる気だよ?」


「アンタこそ、何で村を出でてくのよ?」


 質問で返され、イラッとくる。


 俺は女に甘くはないので、ハッキリと言うことにした。


 キツい言葉だろうが、まわりくどい言い方をして、誤解されるよりマシである。

 つうか、フローラに気を遣ってられない。頭の中は神怪魚で一杯だ。


「村を出る理由は二つ。その一つは、お前が俺を嫌っているからだ。信じてもいないだろう? ロビンさんは共闘するように言ったが、不仲じゃ戦えるわけがない」


 フローラは、俺をにらんだまま黙っていた。

 

「二つ目は、エルフのみんなは確かに親切だが、物珍しい目で見られるのは耐えられん。俺はパンダじゃない! 勝手に勇者とか呼んでるが、これじゃただの見世物だ!」


「つ!」


 俺の思いは伝わったようだ。フローラは視線をそらし、落ち込んでるように見える。

 何も言い返してこなかった。言い過ぎかとも思ったが、事実は曲げようがない。


 これで村に帰ると思いきや、フローラは頑固でしつこかった。油汚れか!

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