第23話 夜這いはしない

「隠さなくてもいいのよん、フローラ。一緒に湯浴ゆあみして、身体を隅々まで洗いっこして、夜はベットを共にしたじゃなーい。フローラの体は温かくて気持ちいいのー、うっふん」


「子供の頃の話だー! 誤解されるようなことを言うなー!」


 ハイドラも悪のりし、フローラは大声で否定していた。かなり本気で焦ってる。

 エルフの世界では、レズは冷たい目で見られるのかもしれない。


 恐らくハイドラには、いつもからかわれてるのだろう。

 だとすれば、フローラが会いたくない理由も分かる。


 俺は少しはスッとしたので、フローラを助けてやることにした。

 何事もやり過ぎはよくない。


「分かったフローラ。ノーマルだと特別に信じてあげよう。ハイドラ、そろそろ止めてやってくれ」


「そうね、悪ふざけがすぎたわね。それに本当は私……両性愛者バイセクシュアルなのん!」


「えっ!?」


 ハイドラは俺に正面から抱きついてくる。

 柔らかい乳が俺の胸にあたり、女の甘いにおいがした。


 これで俺の理性が飛びかける。股間がやばい!


 結局、騒ぎまくったせいで、日が落ちてしまう。もう帰れない。


 仕方無く、ダークエルフの村で泊めてもらうことになり、族長であるハイドラの父親に会った。


 名前はアランといい、ロビンさんの弟だそうだ。

 やたら陽気な人で、気さくに俺に声をかけてくれた。


 夕食に招かれて、勧められるままに酒を飲む。果実酒は飲みやすく甘い。

 俺の身の上話を聞いてくれて、アランさんはいい人である。


 しかし、神怪魚ダゴンが湖を汚してる状況で、慌てなくていいのだろうか? 


 亜人の村人達を見てきたが、どうも焦ってる様子はない。必死さはゼロだ。

 そこで聞いてみると、


「なーに、二か月くらいならほっといても、生活に影響はでんよ。井戸もあるし」


「そうですか……」


「そんなことより、ハイドラをよろしく頼む。婿……いや海彦殿」


 と言われて俺は違和感を抱く。


 ロビンさんにも、同じことを言われていたからだ。


 なんかみんな、俺に期待してるように見える。だが俺には体一つしかない。

 いくら考えても分からなかった。俺は勇者じゃないのだから。

 

「うーむ……」


 宴会はお開きとなり、あてがわれた寝室で俺は横になる。

 絨毯がしかれており、立派な客室だ。ただ家具はベットだけだった。


 酒を飲んだせいで、俺は眠くなる。目が閉じかけたところで、部屋に乱入してくる者がいた。


 俺の知ってる限り、これだけ傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞う女は一人しかいない。


 しかも、


「アンタ、そこをどきなさい。私が眠るから」


「はあ!? なんで!?」


「ハイドラが夜這いにくるからよ。あんたと一緒なら襲ってはこないわ。分かったら、さっさとどきなさい!」


 俺はベットからの、立ち退きをくらう。


「おい、俺はどこに寝ればいいんだ?」


「毛布を持ってきてあげたから、下に寝なさい。じゃーお休み」


「…………」


 横暴女はベットを奪って、そのまま寝てしまう。怒る暇もない。

 俺は呆然としながらフローラを見ると、すでに寝息を立てていた。


 どう見ても隙だらけである。俺から襲われるという考えはないのか?

 まあ、夜這いをしようとしても返り討ちにあうだろう。


 仮に誘われたとしても、俺は手を出す気はなかった。後々が恐い。


「やれやれ」


 俺は毛布にくるまり、絨毯に寝そべった。

 叔父の船で寝た時を思い出す。


「山彦、叔父さん……無事だといいな……」


 別れた家族を想いながら、俺は眠る。


 近くまで忍びよっていたハイドラには、気づかなかった。


「フローラが守ってたら、手は出せないわね。今夜は残念、勇者をくいそこねたわ。まあいいわ、いずれ機会チャンスはあるでしょう。ふっふふふふ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る