第22話 私はレズじゃない!

 街道に戻るなり、フローラはいきなり走り出す。


「急ぐわよ!」


「おいおい、まだ日は高いだろ? 慌てなくてもエルフの村には帰れるだろ? それとも近くに、怪物でも出るのか?」


「黙って! いいから走って! ……怪物の方がよっぽどマシだわ」


 速い!


 ついて行くのがやっとだ。俺も体力には自信がある方だが、女のフローラに負けている。

 エルフの身体能力は、かなり高いと見た。


 これで魔法まで使われたら、俺はあっさり倒されてしまうだろう。

 その強いフローラが焦り、周囲を警戒している。顔つきも真剣そのものだ。


 一体、何を恐れているのだろう?

 

 そして、三つ目の立て札が見えてきて、ようやくフローラは足を止めた。


「ぜー、ぜー……」


 ここまで、あっと言う間である。走るのはかなりキツく、俺は息を切らしていた。

 リンダのとこで食ってなかったら、ぶっ倒れてるところだ。


「あそこが、ダークエルフの村よ。これで案内は終わりよ、おしまい、おしまい。人間の城は遠いから、また今度。さあ、村に帰るわよー」


 用は済んだとばかりに、フローラはきびすを返す。


 今度は早足で、スタスタと道路を戻り始める。どうも村には近寄りたくないようだ。


「ダークエルフの村には入らないのか? 俺は挨拶しなくていいのか?」


「必要ないわ」


 にべもなく、フローラは言った。


 もしかすると、同じエルフでも仲が悪いのかもしれない。

 フローラが嫌がってるように見えたので、俺はそう感じた。


 込み入った事情があるなら、よそ者が口を出すべきではない。

 俺達が帰りかけると――


 バサッ! という音がして上から何かが、舞い降りてくる。

 それは俺達の前を塞いで、喋りだす。


「フローラあぁ、ここまで来て帰るだなんて、冷たいわー。よよよよよ、しくしく、私は悲しいわー!」


「ちっ! やっぱり見つかった」


 わざとらしい嘘泣きをしているのは、褐色肌の女性だ。

 これがダークエルフという亜人だろう。


 銀色の長い髪に、コバルトブルーの瞳。身長は俺と同じくらいか。

 際立っているのはその衣装で、黒のハイレグレオタードなのだ。


 革のロングブーツのおかげで、長く美しい足が強調されている。


 胸元は菱形に開いており、ひもをジグザクに通して、ノーブラの胸を締めつけていた。


 それでも弾けそうで、かなりのボインである。


 これをエロいと言わずして、他に何と言う!


「用事があったから、早く帰ろうとしただけよ」


 かなり苦しい言い訳だ。どうやら、目の前の女に会いたくなかったのだろう。


「嘘はだめよん、だめだめフローラ。まあいいけどねー」 


 ダークエルフの女は、色気を振りまきながら、俺に近寄ってくる。

 唇を妖しくなめて、誘ってるような目つきだ。


 なぜか俺は身構えてしまう。というより、女が背負っている弓矢を気にしていた。

 日本じゃー武器を目にすることがないから、実際に見ると恐いのだ。


 怯えている俺に、ダークエルフの女が聞いてくる。


「あなた、異界人エトランゼね。お名前は?」


「幸坂海彦だ」


「私はハイドラ、フローラの従姉妹いとこよ。よろしくね」


「ああ、よろしくハイドラ」


 俺は走って疲れていたので、頭がまわらなかった。

 親戚だと聞いても、もう驚きはしない。


 やれやれ、これで挨拶回りは終わりかな? と思っていたら……。


「もう、ヤッたの? フローラ」


「ぶっ!」


「してないわよ!!」


「そうよねー、処女を失ったら巫女じゃなくなるもんね。じゃー、男ひでりのフローラは、私が優しく慰めてあげるわぁ」


「コラ――――! 触るな変態! あう! 胸を揉むんじゃない!」


「あらん? 前より大きくなったんじゃなーい。ねえ知ってる? フローラの胸は大きくて柔らかいのよー。触り心地は抜群でやめられないのー!」


「ハイドラ! いい加減にしろー! アンタも黙って見てないで助けろー!」


 フローラはハイドラに背後から抱きつかれて、暴れている。


 女子校生がふざけあってるようなものだろう。もっともフローラは心底嫌がってるが。


 あー、なるほど。大体二人の関係は分かった。


 しかし、あえて俺は意地悪をする。今までのお返しだー!


「そうか、そうだったのか、今まで悪かったなフローラ。男嫌いじゃー、俺なんかが近寄ったら虫ずが走るわなー。察しが悪くて、すまん、すまん」


「ちょっと、何をいってるのよ!?」


「レズビアンなんだろ? こっちの言葉は知らんが、同性愛であってるか? 美人同士だし、愛をはぐくんでもおかしくはない。うんうん。邪魔しちゃ悪いから、俺は一人で村に帰ることにするわ。ゆっくり二人で、夜を楽しんでくれ。くっくくくくく!」


「私はレズじゃなーい!!」

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