第21話 体で払うしかない

 エイルさんが、肉を食事に出さなかった理由が、今分かった。

 俺が弱っていたから、消化のいい物を食わせてくれたのだろう。


 気遣いに感謝しながら、俺は肉を噛みしめて食べる。

 

 やがて俺達は食事を終えた。は満腹、満足じゃ。

 一キロ以上は肉を食っただろう。


 普段の生活だったら、食費を気にして食えたもんじゃない。

 貧乏の反動だ。俺は手を合わせて拝む。


「ふー、ごちそう様でした」


「はっははは! 全部食ってくれたな、大食漢で男らしいじゃないか」


「意地汚いだけよ」


 フローラは布で口元をぬぐい、嫌みを言う。


 俺の倍は食ってるお前に言われたくねえー! ちゃんと見てたんだからなー!


 体型が変わってないのは、謎だ。


 俺はリンダと向き合い、話を始める。


「勇者が現れたってことは、神怪魚ダゴンを相手にするつもりかい?」


「ああ、やらなきゃ日本には帰れないし、ここでも生活はしていけないからな」


「せいぜい死なない程度に頑張りな、無理はいけないよ。それと必要な物があったら、何でも作ってやるよ」


「じゃー早速だが、ナイフが欲しい。鍛冶屋なんだよな? 前に持ってたやつは、神怪魚に刺して無くしちまった」


「何だ、もうり合ったのかい! 生き延びただけでも大したもんだ」


 リンダは驚き、しきりに感心していた。

 俺を見る目が、ガラリと変わったようだ。


「ナイフなら仕上がってる物が、何本かあるから持っていきな。代金は後払いでいいよ」


「俺、金なんか持ってねえぞ……」


「分かってる。だから、倒した神怪魚の一部をもらうのさ、神怪魚は余すことなく良い材料になる。だけど、不足分は体で払ってもらおうかなー」


 リンダは俺の体を、なめ回すように見た。


 ニヤニヤと笑っている。


「なに――――! な、何をするんだ?」


 臓器を売るのか? それとも夜の相手をするのか? 俺は恐くて不安になる。


「はっははは、そうビビらなくてもいいよ。仕事の手伝いをしてもらうだけさ、鍛冶はキツいがね。それと、ここらじゃ通貨は使わないよ。物々交換が基本だわ」


「そうなのか?」


「そうよ。だから、しっかりと働いて返しなさい」

 フローラが言った。


 村社会の狭い地域では、金は意味がないのだろう。


 自給自足の運命共同体であれば、とにかく働いて、それぞれの役目を果たす必要がある。


 ただ今の俺に、提供できるものは何もなかった。

 飯を食わせてもらっている以上、返す必要はある。恩知らずにはなりたくない。

 

「分かった。必ず後で返す」


 俺達は工房に戻って、ナイフを見せてもらう。

 三本ほどリンダに選んでもらい、俺は受け取った。


 素振りをしてみると、手によくなじむ。ナイフの出来は素晴らしい。


 ただ、あの神怪魚の頭には刺さらんだろうなー。


 倒すにしても、なにか対抗手段を考えないといけない。


「剣も持ってくかい?」


「それは止めとく、重くて振れそうもない。剣術はやったことがないしな。ところで、剣なんて誰が使うんだ?」


「お城の騎士様さ、くっくくく!」


 意味ありげに、リンダは笑った。


「へー、城なんてあるんだ。ここに王様でもいるのか?」


「人族の王様な、ここを支配してるわけじゃない。全部族と契約して、女神ノルニルの湖一帯を守ってもらってる。街道の道路は人族が作ってるわ」


「人間がいるんだ……」


「ああ、ここから大分離れた場所に城がある。機会があったら行ってみるといいわ。人間の王様は異界人らしいからさ」


「ああ、そうする」


 異界人がいると聞いて、俺は少し気が楽になる。

 同じ人間、同じ境遇なら話は通じるだろう。

 ただし会うとすれば、神怪魚を倒してからだ。

 

 俺はリンダに礼を言って、オークの村を後にする。

 去り際に何か言ってたようだが、よく聞こえなかった。


異界人エトランゼの本当の……を知ったら、海彦はどうするのかねえー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る