第20話 お尻がでかい

「隣の男は彼氏かい? そうか、いよいよ結婚するのか。お祝いしないとね」


「ぶっ!」


「違うわよ! 誰がこんな男とするもんですか!」


 フローラの機嫌が、また悪くなったのは見て取れた。

 変なことを言われる前に、俺は自分で自己紹介をする。


「俺の名は、幸坂海彦。こっちの世界で言うところの異界人だ。今はフローラに村々を、案内してもらっている」


「へー、アンタが勇者か……あたいはリンダ」


 俺より背の高い女は、笑みを浮かべながら、俺を値踏みしてるように見えた。

 おもむろに手を差し出してくる。俺も右手を出して握手をした。


 リンダの手は大きいが、意外と柔らかい。


「……良い手だ。ずっと真面目に働いて生きてきた証だわ。親父が言っててな、手をみりゃその人間が分かると……」


「なるほど、いい親父さんだな」


「単に古くさいだけさ、今は留守にしてる」


「オークの族長よ。まあリンダに会えたから十分ね」


 フローラが説明した。


 リンダをよく見ると、茶色の作業エプロンをつけており、膝上まで覆われていた。

 素肌が見える腕と、顔は蜂蜜色。髪色はブラウンでショートパーマ。天然ぽい髪だ。


 体型はボディビルダー思わせ、無駄な贅肉がない。恐らく腹筋は割れてるだろう。

 鍛冶という力仕事をするには、うってつけの体だ。


 顔つきは穏やかで、人懐っこい笑顔をする。

 時折白い歯がこぼれるが、見えたのは牙ではなく、やや長い犬歯だった。


 はっきり言おう、俺の好みのタイプだ。ブラジリアン美人を思わせる。


 性格もフレンドリーで申し分ない。


 俺の隣に、夢にまで見た金髪青目女はいるが、性格不美人はお断りします。


 顔も穂織ではえてくる。


 グー


 とうとう腹の虫が鳴ってしまった。恥ずかしいが、生理現象はどうしようもない。


「あっははは! ちょうどいい、昼飯を食っていきな。取った獲物が余ってて、皆で分けきれなかったとこだ」


「ゴチになります。リンダさん!」


 俺はかしこまる。

 今なら魂を売り渡しても、飯を食いたい。


「リンダでいいよ。堅苦しいのは好きじゃない」


「分かった、そうする。俺も海彦でたのむ」


 うなずいたリンダが背を向けると、俺は目を丸くした。


「うっ!」


「どうかしたかい?」


「いや、何でも……」


 正直、俺は目のやり場に困った。

 リンダはTバックを履いており、綺麗なお尻が丸見えだったのだ。


 それだけでなく、背中にあるブラジャーの紐が見えた。裏側は丸裸と言っていい。

 

 こ、これは裸エプロンという奴ではないのか? 下着はつけてるが。


 熱い鍛冶仕事をすれば、汗を大量にかくので、裸でいる理由も分かる。


 しかし、男に見せるもんじゃねーだろ!


 文化の違いなのか、リンダは俺に見られていても気にした様子はない。


 揺れる生尻に目が離せず、触りたいのを必死で我慢してると、フローラから肘鉄をくらった。


「いてっ! なにをする!?」


「ふん、やっぱりスケベね」


「…………」


 今ばかりは、欲情丸出しだったので、俺は何も言い返せない。


 目の前に、大きい桃があるのが悪いんだー!


 部屋を移動し奥に行くと、食卓と台所ダイニングキッチンに案内される。

 間取りは広く、中は明るくて綺麗だ。

 

 リンダは大皿に料理を盛って、出してくれた。


「肉だ――――!」


 俺は大きい串焼きに涙する。肉を食わずして、生きてはいけない。

 若人わこうどのエネルギー補給にはかかせず、活力の源である


 俺はそのままかぶりつく。


 美味い!


 やや臭みはあるが、香草と酒で和らいでいる。

 歯ごたえもよく、それでいて噛みきりやすい。脂身や筋が切ってあった。


 いわゆる隠し包丁だ。


 手間のかかることは、中々できることではなく、リンダは料理上手である。


 空腹が収まってくれば、余裕が生まれ、ふと二人を見てみると、

 薄いパンに挟んで野菜と一緒に食べていた。


 俺も真似をする……あれ?


 エルフって菜食主義者ベジタリアンじゃなかったか?


「フローラ、肉くうんだ?」


「当たり前でしょ、栄養バランスを取らないと、美容にも悪いわ」


 ……どうやらこの世界のエルフは、俺のイメージとはかけ離れてるらしい。

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