第18話 占いは外れない

 家の奥から出てこないので、フローラが呼びかける。


「大丈夫よ、ロリエ。こいつが何かしようとしたら、私が始末するから」


「……おいおい、そりゃーねえーだろ。でも、俺は挨拶をしにきただけだから、本当に何もしないよ。出て来てくれないか?」


「……本当? じゃー座ってて」

 

 ロリエと呼ばれた少女は、ゆっくりと歩いて……こない。


 一歩進んで、二歩下がる――後退してるじゃねーか。


 やっぱり俺を警戒してるようだった。見ず知らずの男が来ては、無理もない。

 

 ロリエは三角帽子を被ってケープを羽織り、カボチャのパンツをはいていた。


 これは魔女ではなく、魔女っ子というべきだ!


 魔法少女とは言いたくない! 言ってはならない! 俺のこだわりである!


 ロリエの服装は青で統一されて、かわいらしい。

 かなり時間はかかったが、ロリエは俺の前に座ってくれた。


 おどおどしており、小動物を思わせる。つぶらな瞳で俺をじっと見ていた。


「初めまして、俺は幸坂海彦」


「私はロリエ。あなたは勇者様?」


「違うわ、変態の異界人エトランゼよ。ロリエも注意しなさい。気をつけないと、手込めにされるわよ!」


 俺は頭を抱える。

 初対面で悪口を言いふらされたら、仲良くしようがないじゃないか!


 流石にフローラに文句をつけようとすると、ロリエがかばってくれた。


「フローラ、少し言い過ぎじゃない。今までに訪れた異界人に、悪い人はいなかったわ」


「こいつの場合は少し特殊なのよ。初の大悪人になるかもね」


「ひどい、それじゃー占ってみるわ。やっていい? お兄ちゃん」


「えっ! 占い?」


「そうね、ロリエの占いは絶対に当たる。こいつを見定めるにはいいかも、悪人だったら殺しましょう」


「……ひでーな、俺は本当に何もしてないのに。まあいい分かった。占いとやらをやってくれ、ロリエちゃん」


 これで俺の潔白が証明されれば、フローラの態度が少しはマシになるだろう。

 俺はやましいことはしてないので、占いに期待する。


 あと、お兄ちゃんと呼ばれて、俺は気分が良い。


 山彦から呼ばれるのとはまた違う……あれから、弟はどうしてるだろうか?


 ただし、俺はロリコンではない。ましてやペドフィリアでもない。本当だよー!

 少女の仕草をみて、純粋に可愛いとは思った。


 ロリエはカードを取り出して、テーブルにおいた。


「お兄ちゃん、山札の上に手をおいて、目をつむって願い事を頭に浮かべてみて」


「わかった」


 願いは一つ、日本に帰りたい。ただそれだけである。


「もういいよ」


 俺が手を離すとロリエは山札の上から、上から順にカードをめくり、時計回りに十二枚のカードを並べた。


 絵柄がありタロットカードのようだが、別段変わった様子はない。


「アルカナよ、幸坂海彦の真実と、未来を見せ賜え!」


「おおっ! すげー!」


 カードが輝いて、垂直に立ち上がったのだ。

 山札を中心に、カードが回り出す。これも魔法なのか?


 ロリエは手を触れてはおらず、勝手にカードは動いていた。


 やがてカードは、止まって倒れる。方向も位置もバラバラだ。


 それを、じっとロリエは見ていた。占いの結果を読んでいるのだろう。


「えー、嘘!? こんなのって! やだ、恥ずかしい!」


 顔を赤らめたロリエを見て、俺は不安になった。

 やばい結果だったら、俺の命が危ない。神怪魚と戦う前にフローラに殺される。


 固唾を飲んでいると、


「フローラ……お兄ちゃんは嘘は言ってないよ、良い人だよ」


「嘘!? 信じられない! コイツは変態よ!」


 お前……さっき絶対に当たるって、言ってただろうがー!


 俺を不埒者と決めつけて思い込んでいるから、どうしてもフローラは認めたくないのだろう。


「あんまり、お兄ちゃんをいじめるとひどい目に遭うわよ。もう止めなさいフローラ」


「う……分かったわ」


 俺はホッとして、胸をなでおろす。少なくとも直ぐに、殺される心配はなくなった。

 助けてくれたロリエは続けて言った。


「お兄ちゃんの望みは、これからの行い次第で叶うよ。だけどね、最後に決めるのはお兄ちゃんだよ」


「占ってくれてありがとう、ロリエちゃん。おかげで少しは希望が持てた。その言葉、心にとめとく」


「うん」

 

 この時の俺は、その重大さに気づくことはなかった。


「ひょひょひょ、話は済んだかえ?」


 突如、しゃがれた声が聞こえてきた。

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