第15話 腹が立っても選択するしかない
「それで地球を知っている
「じゃー、他にも地球人がいるんですね? 日本人はいませんか?」
「儂が知ってるかぎりではおらんのう。現在、異界人は少ししか残っておらん」
「そうですか……ところで、何でみんな日本語を使えるんですか? 習ったにしては子供も話していたし、わざわざ覚える必要はないはず……」
「言葉が通じておるのは、女神様のおかげじゃ。多種族と意思疎通ができるように、
言葉は不思議だったが、神様を出されては納得するしかない。
族長は紙を取り出し、羽ペンで文字を書いてくれた。
書かれた文字を見てみたが、族長の言うとおり分からなかった。
「外国語は勉強しましたが、見たこともない文字で、全く読めません」
「儂らも漢字とやらは読めん。恩恵は翻訳機のようなものじゃ」
「なるほど……」
「ヘスペリスに来た異界人は、命を落とした者、ここに残った者と……そして元の世界へ帰った者がおる」
「帰れるんですか!?」
俺は顔を上げて立ち上がり、思わず身を乗り出す。
日本に帰還できると聞いては、期待せざるを得ない。気持ちも明るくなる。
「じゃが、お主の場合……すまんのう、巻き込んでしまって。うーむ、どうなるか儂にも分からん……」
「えっ?」
族長は黙ってしまい、言いづらそうにしている。
しばらく沈黙が続き、俺は不安になる。何か問題があるのか?
俺が聞こうとすると、フローラとかいう女が代わりに答える。
「あのう……」
「アンタ、見たわよね? 『
「ああ、あの化け魚のことか? 襲われた時には死ぬかと思った」
「神怪魚は<狂える神>、数十年おきに湖に現れては、皆に危害を加えてくる。ここに住まう者達すべての敵よ。だから私が異界に追放しようとしたんだけど……失敗したわ」
「ちょっと待て! あの時、海が光っていたのは、もしかして!?」
「私が女神の力を借りて、『
「するとなにか!? 神怪魚とやらに巻き込まれたせいで、俺はここに来てしまったのか!?」
「そうね、運が悪かったわね」
よく聞けばひどい話だ。
猛獣が近くに現れたから、それを
人の迷惑かえりみず、やって来ました神怪魚。
ふざけんなー! このやろうー!
俺を巻き込んだ、張本人であるフローラは謝りもしない。
罪悪感の欠片もないようだ。
暴力女を責めてもどうにもならないが、俺はかなりむかついた。
「本当にすまんのー、というわけでお主は、普通にここに来た異界人とは違うんじゃ……」
「でも、霊道とやらをもう一度開けば……」
「今はもう無理よ」
「何で?」
「霊道を開くには、湖にある<オドの力>がいる。
「ちなみに、娘のフローラは
「まずは、神怪魚を何とかするしかないと?」
「そうじゃ」
話は十分理解した。
俺が日本に帰るには霊道を開く必要があり、そのためには
だ・け・ど……あんなの倒せるかー! 死にかけたんだぞー!
「お主も見た通り、
「何か?」
「このままだと湖が汚れてしまい、生活が成り立たん。水なしでは人は生きてゆけん。どうにかせんと、皆死んでしまう。大変じゃ、大変じゃ、困った、困った」
くさい棒読み台詞を吐き、族長はすがるような目を俺に向けてくる。
……この
よそ者が死んだ所で、心は痛まないだろう。
さて俺が取れる選択肢は……
一、神怪魚を倒す
二、神怪魚を殺す
三、神怪魚を仕留める
全部、同じじゃねえーか!
断って逃げるという道はなく、逆に殺されたら
「命懸けの無理ゲーをクリアしろ!」と言われたのと同じ。
それでも、俺の選択肢は一つしかなかった。
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