第14話 族長の話を聞くしかない

 大樹の高さは百メートルはあるだろう。幹周りも三十メートル以上だと思う。

 あくまで俺の目測だ。


 上を見上げれば、つたや縄が垂れ下がっており、登れるようになっていた。


 見張り小屋のような物が、かなり上に見えた。俺の視力は良い方である。

 

 大樹の下には、二階建てのログハウスがあった。


 ここが族長とやらの家だろう。とっくに目的地に着いていたらしい。

 話を終えた、エイルさんが近寄ってくる。


「海彦さん、すみません。急患が入りましたので、私は診療所に戻ります。夫は中にいますので、遠慮せずにお入りください。あと、お足の汚れはあちらで」


「分かりました」


 俺は素足で歩いて来たので、近くにあった水桶で泥を洗い落とす。


 エイルさんは足早に去っていった。慌ててるので、重傷患者なのかもしれない。


 家の前にはウッドデッキがあり、俺は階段を上がる。


 椅子やテーブルがたくさんおいてあり、結構広い。寄り合いなんかで使うのだろう。

 

 歩いて両開きドアの前にくると、俺は緊張する。


 何を言われるのか? 何をされるのか? 分からないから恐いのだ。


 とはいえ引き返す道はない。勇気を出して、俺はドアを開けた。


「失礼します」


 分厚い扉は思ったより軽く、静かに開いていく。


 赤い長絨毯が奥まで続いており、大広間になっていた。


 木製の調度品がそろえられ、立派である。客間なのであろう。


 奥には椅子と円形テーブルがあり、二人が座っていた。


 キョロキョロしながら、俺は前に進んでいく。他に人は見当たらない。

 俺が近づくと、族長らしい人物が立ち上がった。


「ようきたのう、異界人エトランゼ。儂らエルフはお主を歓迎する。まあ座ってくれ」


「はあ……」


 言われるままに、俺は椅子に腰掛けた。


 目の前にいる男性は髭をやしており、特徴がある。


 年寄りくさい言い方なので、高齢なのかもしれないが、どう見ても若く見える。


 つうか、どいつもこいつも、顔にしわはないし白髪もない。


 見分けがつかねーんだよ!


 あっ! そう言えば思い出した。エルフは長命種じゃなかったか?


 ゲームや映画で見た記憶があった。長耳に高身長で美形。


 貧乏人の俺でも中古品を買えば、娯楽品は手に入り、それなりの知識は得られる。

 あと、人からもらった物も多い。現代は物が多すぎて余っているからだ。


 ただエルフは、架空の世界にいる亜人のはずだ。


 どうやら俺は、幻想世界ファンタジーワールドにやって来たらしい。


 やはり異世界か……。



わしの名はロビン、エルフの族長をやっとる」


「幸坂海彦と申します。よろしくお願いします」


「うむ」


 俺は名乗って挨拶する。族長の隣にいるのは、穂織に似た暴力女だ。


 そっぽを向いて、俺を見ようとはしない。

 目を吊り上げて、頬をふくらませて怒っている。

 

 俺としては助けてやったつもりなんだが、何かしでかしたかもしれない。


 後で聞いてみよう。憎まれたままでは気分が悪い。

 

「幸坂殿、まずは娘を救ってくれた礼とお詫びを申し上げる……コラッ! フローラ! 謝らんか!」


「……殴って悪かったわね、フン!」

 

 とても謝ってるようには見えない。嫌々喋ってふんぞり反っていた。


 まるで穂織そのものだ。顔だけでなく声もソックリで、俺は錯覚する。

 ただ呆れるほかはない。


「すまんのう、はねっ返りな娘で……」


「いえいえ、俺の方こそ、介抱していただき感謝してます。それで……」


「うむ、分かっとる。聞きたいことが一杯あるのじゃろう? 順を追って話すがよいか?」


「はい」


「なかなか肝が据わっとるなお主。知らん場所にきて、わめき出すかと思ったが、感心感心」


 族長は褒めてくれたが、俺は単に開き直っていただけだった。

 まな板の鯉というやつだ。


「まずここは、ヘスペリスという世界じゃ。儂らが住んでるここら一体は、女神ノルニルの湖と呼ばれておる。五女神の加護の元、我らは平和に暮らしておる。世界がどれくらい広いかは知らん。外に冒険に出た者は、帰って来ないからのう……」


「やっぱり、日本じゃないんだ……」


「うむ、地球とやらではない」


 現実をつきつけられて俺はガッカリしたが、族長の話を聞くことにする。

 知りたいことはこれからだ。


 日本に帰る方法があれば良いが……。

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