第13話 覚悟するしかない

 俺は用を足した後、寝床に戻った。


 知らない場所にきた動揺はあったが、それ以上に体の疲れが勝る。


 腹も満ちたので、俺は眠くなっていた。


「考えるのは、明日にしよう。おやすみ」


 独り言のあいさつをして、目をつむった。


 翌朝。


「ふあぁ…………」


 俺は起き上がり、手を上げて伸びをする。


 あくびをしながら、日の光を窓から浴びる。お日様は同じようだ。

 部屋には滑り出し窓があり、外から開けてくれたのだろう。


 昨日きのうからの出来事を思いだしながら、考えにふける。

 だが、不安だけがつのり、俺は暗くなるだけだった。


「ふー、悩んでもしゃーない。とにかく話を聞いてみよう」


「起きてますか?」


「あ、はい」


 昨日の女性の声がして、部屋の中に入ってくる。

 木の器を持っていたので、朝飯であろう。


 俺はすかさず、頭を下げて礼を言う。


「ありがとうございます」


「いえいえ、大したものはありませんので」


 器を受け取り、俺は座って食べ始める。

 昨日かなり食べた割には、もう腹は空いていた。


 若いのもあるが、寝だめと食いだめはできないと、つくづく思う。


 朝食は、麦粥に野菜のようなもの。

 日本では見たことのない、色と形をしていた。


 俺は中身を詮索せんさくする気はなかった。

 食えれば問題はなく、聞いたところで知らない名前が、出てくるだけだろう。


 恐る恐る食べてみると、甘く歯ごたえがあっておいしかった。ただ肉がないのは残念。


 まあ贅沢は言ってられない。


「ごちそうさまでした」


 食べ終えて手を合わせてから、俺は女性に聞いてみた。


「名乗ってませんでしたね、俺は幸坂海彦と言います。海彦と呼んでください」


「エイルと申します。それでは海彦さん、族長である夫のとこまで御案内します。私の後をついて来て下さい」


「……分かりました」


 いよいよかと、俺は緊張してしまう。尋問されて牢屋に放りこまれる可能性もある。


 何せ、むこうの人間からしてみれば俺は異人だ。不審者あつかいされてもおかしくない。


 外に出るまでに、何人かの怪我人とすれ違ったが、全員が長身の長耳だった。

 丸太小屋から出てみても、日本人は見当たらなかった。


 後ろを振り返って建物を見ると、かなり大きい。昨晩は暗くて気づかなかった。


「ここは診療所なんですか?」


「はい。そちらで言うところの、病院ですね。私は治療師ヒーラーです」


 病院であれば、俺が担ぎ込まれたのも納得……ちょっと待て!


 どうして「病院」という単語を、エイルさんは知ってるんだ?


 そもそも、何で日本語を話せるんだー!?


 今更ながらに疑問がわき出して、俺は質問したくてたまらない。


「あの……!」


「わーい!」

「お兄ちゃん、どっから来たの?」

「へー、これが勇者様かー」 


 質問する前に、俺は子供達に囲まれてしまう。


 誰も彼も、似たような顔をしていて見分けがつきにくい。

 子供はなんとか分かる、童顔で背が低いからだ。


 俺を見上げて、屈託のない笑顔を向けてくる。


「こらこら、邪魔しないの。族長様のとこへ行かれるのですからね。どうもすみません」


「いえいえ」


 母親らしい女性が、子供達を連れて行く。


 大人になると全員が美形なので、男女の判別すら難しい。

 失礼だけど、胸を見るしかなかった。


 それでも周りにいる人達は、俺に笑顔を向けてくる。ニコニコ顔だ。


 とても友好的に見える。


 白眼視されて、石でもぶつけられるかと思っていたが、完全に拍子抜けだ。


 暴力女に殴られたので、それなりの覚悟はしていたのだ。

  

 うーん……なんか、期待されてねえーか? 

 

 さっき、子供が俺のことを、勇者とか言ってなかったか?


 …………とても、とてつもなく、いやーな予感がしてきた。


 俺の悪い予感は、たいてい当たる。


 改めてエイルさんに聞こうとしたが、誰かと話をしてる最中だ。


 ここは遠慮して、俺は待つしかない――!


「でけえ!」

 

 長耳の人達ばかりに気を取られ、俺は気づかなかった。

 巨大樹が目の前にあり、俺は驚いて上を見上げる。

 

 この木、なんの木? 気になります!

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