第12話 飯が美味い

「うーん、うーん……うわっ!」


 ひどい悪夢にうなされて、俺は跳ね起きる。


 巨大な何かにぶっとばされたようだったが、よくは思い出せない。


 夢とは得てしてそういうものだ。いちいち気にしてはいられない。

 それよりも、


「まだ生きてるようだな……」


 手足は自由に動く。俺の前にあるのは、太い木が重ねられた壁。


 見渡せば、丸太小屋ログハウスのような部屋だ。


 ドアはなく、布のしきりがあるだけだ。俺はベッドに、寝かせられてたらしい。

 ベットも木でできており、マットレスは意外と柔らかい。


 何かの羽を使ってるのだろう。


 窓は見当たらず、上にある電球のようなものが、部屋を明るく照らしている。

 ただ、コンセントは見当たらない。


 服は脱がされ、白い麻の服を着せられていた。一枚布の服である。

 下着も外されたようだ。


「ずぶ濡れだったからな、文句は言えん……それにしても、腹が減った。何でもいいから、食いたい……」


 グーグーと腹の虫が鳴く。飢えるというのは辛いものだ。


 一食だけで一日を過ごしたことがあったが、今はそれ以上にきつい。

 はってでも、食い物を探そうと俺は動き出す。

 

 すると布の仕切りから、誰かが入ってきた。


「お目覚めのようですね、ご無事でなによりです」


 またもや長耳に、金髪碧眼の女性だった。


 最初に会った女と顔が似てるが、少し違う。別人だ。

 声と体型が異なっており、背は低くホッソリとしていた。

 

「あのー、ここは一体? あなたは?」


「お腹が空いてませんか? 食べ物をお持ちしました」


「はい!」


 俺はひたすら喜ぶ。


 女性から差し出されたのは、木の器に盛られた木の実や果実。

 食べやすいように、きれいにカットされていた。


 俺はスプーンを手に取り、ガツガツと食べる。何も考えずに食べる。

 一口食うごとに、生き返っていくようだった。


 胃に入った食べ物が、速効で消化されエネルギーとなる。


 果実は美味く、俺は思わずうれし涙をこぼす。生きてるってすばらしい!


 のどに食べ物が詰まりそうになると、木製コップが女性から手渡された。

 俺は水をゴクゴクと飲む。食器類は木で作られていた。


「ありがとうございます」


 食い終わり、俺は頭をさげて感謝する。


 かなりの量の食べ物があったのだが、俺は一気に平らげてしまった。


「いえいえ、こちらこそ娘を救っていただき、感謝いたします」


「娘?」


「湖で助けてくださいましたよね? それなのにあのったら、命の恩人を殴るなんて……本当に申し訳ございません」


「あ、頭をあげて下さい! ああ、あの暴力……女のお母さんでしたか、それにしてはお若い……それに、ここは一体どこなんですかー?」


 腹が満ちた俺は、ようやく余裕が出てくる。質問せずにはいられない。

 何から聞けばいいか、分からないほどだ。


「まずは落ち着いて、今晩はゆっくりお休みください。詳しい話は明日、私の夫がしますわ」


「えっ! もう夜なんですか?」


「はい」


「……分かりました。ただ、外に出てみていいですか?」


「では、どうぞ。案内します」


 部屋の中にいるだけでは不安になる。俺は起き上がり、女性はランタンを持った。

 後をついて行き、右に曲がるとドアが見えた。


 木扉を女性が開けると、外からの明かりが差し込んでくる。


 夜にしてはかなり明るい。見上げればデカい月が夜空にあった。


 日本じゃー見たこともないし、あり得ない。月が地球から遠く離れてるからだ。

 月の距離が近くないと、大きくは見えない。


 それと、星空がやたら綺麗に見える。周りに人工の明かりがなく、暗いせいだろう。


 ビルのような建物は見当たらず、辺りもひっそりとしていた。


 耳を澄ましても、街の喧騒けんそうはなく、自動車の音もしてない。


 これでハッキリした。


 ……いや、耳の長い女と会った時点で、俺は薄々気づいており、認めたくなかっただけなのだ。


「はあー……異世界だな、ここ」

 

 こんなところに、来とうはなかった!

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