第5話 金髪姉ちゃんが欲しい

「……こんなもんでいいか、叔父さん?」


「ああ、話し合いはしたんだから筋は通した。あとはむこうの問題だべ」


「そうだね」


 家族二人が納得してくれたので、俺はホッとする。

 立つ鳥としては、後を汚したくはなかった。


「あんがと。あと、俺の我がままを聞いてくれて、感謝してます。保叔父さん」


「かまわんよ、海彦の人生だ。若いうちはなんにでも挑戦したらええ」


「でも兄ちゃんが行ってしまうのは寂しい……」


「ごめんな山彦。俺はライフガードになりたいから、お嬢様に構ってる暇はないんだ。海外へ渡航する準備は終わってるし、今回の釣り大会は最後の記念だ」


 ライフガードになるのは俺の夢だ。


 ライフセイバーの国内資格は全部とっているが、その上の救命のプロに俺はなりたかった。

 本場は海外である。


 そのために外国語を必死で覚え、バイトもして金を貯めてきた。

 海外で雄飛ゆうひするのは大変かもしれないが、俺は挑戦してみたい!


 ……と、大げさに夢を語って見たが、もう一つ俺には野望がある。


 いや、それこそが本当の夢だ。それは……

 

 金髪ねえちゃんと結婚するんだー!


 彼女いない歴=年齢の俺は、女に縁が全くなかった。

 日本の女が相手をしてくれないなら、外国人女性を求めるしかない。


 特に金髪碧眼に憧れており、穂織は美人でも好みではなかった。

 まあ、海外に行ってしまえば、もう会うこともないだろう。

 うざい海神ともおさらばだ。


「これより第十三回、カジキ釣り大会を開始します」


 放送を聞いた俺達は、叔父の船に乗り込む。


 大会初日。

 幸先よくアタリがきて、俺はクロカジキを釣り上げた。

 重量は百四十キロ、いきなりトップに立つ。


「やったぜ!」


「良かったね、兄ちゃん!」


 これで入賞は確実だろう。それだけでも俺は嬉しい。

 去年のようなことにはなるまい。


 終了時間が来てマリーナに戻ると、唇をかみしめた穂織が、遠くから俺を睨んでいた。

 はっきり言って気分が悪い。相手の釣果ちょうかを称えるのが礼儀である。


 自分の唇がかかってるかと思えば、苛立つのも分かるが、そもそも勝負を挑んでこなければよかったのだ。


 親の命令だろうが、俺は接待を望んでないのだから、いい迷惑だ。

 執事さんには頼んだが、このままでは海外まで追いかけてくる可能性もある。


 やはり大会が終わったら、御嬢様と話をする必要があるな。


 

 大会最終日。

 俺達にアタリは来なかったが、他のチームも鳴かず飛ばず。


 このままいけば、俺達の優勝。あきらめてないのは、お嬢様くらいだろう。

 大会終了まではもう少し時間があるが、俺は釣りを止めることにした。


「叔父さん、お嬢様のとこに行ってくれ。きっちりと話はつけときたい。『キスなんかいらん』とね。黙って逃げるのは卑怯だから……」


「そだな、海彦の言うとおりだ。ケジメはつけとくべきだ」


「兄ちゃん、男だ! 立派だ! 格好いい!」


「よせ、照れるだろ。ふっ」


 山彦に褒められて、俺はにやけてしまう。おだてには弱い。


 ……ブスン。


「えっ……」


 シーン……辺りは突然静かになる。叔父の船ではよくある事だ。


 たまにではない……しくしく。ボロ船は伊達ではなかった。


「あかん、エンジンが止まった。ちょっくら直す」

「僕も手伝うよ、叔父さん」


 二人は機関室に下りていった。


「……格好つけても、中々しまらんなー……ん?」


 遠くの海が光ってるように見えた。

 不思議な現象を、俺は即座に否定する。


「太陽が海面が反射して見えたんだろ、目の錯覚だ。俺も船の修理を手伝おう」

 

 だがそれは、気のせいではなかった。

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