3話:「俺の」出会い
右に向かって歩き出してみると、これはこれは。
どうやら俺には、運の神様がついているようで。
「よっしゃ!見つけた!洞窟!!」
辺り一面草むらだったはずの視界に、岩山が見えたので、とりあえずその岩山の周りをくまなく探索してみたら、洞窟への入口を見つけた。
洞窟、と言うよりかは洞穴…という感じだが。
「少し暗いな…明かり、明かりっと」
ポケットをまさぐり、スマホを探す。
スマホのライト機能なら、割れてもまだ使えるはずだ。
…って、あれ?
「…ない」
スマホがない。
どこかで落とした?いや、俺のズボンのポケットは優秀だ。ちょっとやそっとの刺激で落ちる所じゃない。
ただ、最悪のケースを想定したとしたら…
「あの女の、とこ…」
パルミーのところで落としてきた。こう考えるのが妥当だ。
(どうするんだよ、こんな暗いのに…)
その暗さと言ったら、先が見えない暗さだ。
伝わりやすく言うなら…明かりのない田舎の山道…といったところだろうか。
…いや、伝わらないか。
グラグラ…
「ん?」
しばらく考えていると、突然置くから小さな音が聞こえた。
まるで地鳴りのような音だ。
「奥から音…?って、もしかしてこの洞窟、崩れたりしないよな!?」
確か、町長の娘さんはここに拉致られているはず。
つまり、このまま洞窟が崩れたら…。
「…くそっ、行けばいいんだろ、俺!!」
俺だって男だ。
両頬を三回叩いて、洞窟の中へ走った。
走ってみてわかったが、どうやらこの洞窟は、特に分かれ道などはなく、一直線の道が続いているだけの簡単な仕組みになっていた。
それは少し安心だ。
洞窟の中をただひたすら走ると、地鳴りのような音はだんだん大きくなっていった。
少し怖くなってきて、呼吸が荒くなる。
左肩にぴちゃ、と水滴が垂れるだけで背筋が震える。
「な、何ビビってんだ俺…。こ、こんなの、ゲームで言う序盤の討伐クエストみてぇなもん…」
両腕を自分で抱いて、一歩一歩、慎重に歩き進んでいくと。
ドンッ!!
……何かにぶつかった。
「……まさか」
顔が真っ青になっていくのを感じながら、俺は恐る恐る顔を上げた。
「ガルルル……」
あ、俺死んだわ。
どう見てもドラゴンですよ。
ドラ◯ンクエストのあのダースなんとかドラゴンみたいな。
まあ詳しくはググってくれ。
「グオオオォ…!!!」
「う、うわあああああ!!!!!!」
ドラゴンの咆哮と俺の悲鳴が洞窟中に響き渡るのはほぼ同時だった。
逃げようにも足がすくみ、ついには腰を抜かしてしまった。
「グルル…」
「うっ…」
ドス、ドス、と音を立てながらドラゴンは俺に近づいてくる。
ぶつかったことによって激昂しているのか知らないが、とにかくメチャクチャ怒っていることは見ればわかる。
まるで100Kmマラソンをした後のように滝のように汗が溢れる。そんなマラソンしたことないけど。
「ああ、やっぱり来るんじゃなかった…」
そう後悔して、大人しく死を受け入れようとした瞬間、ドラゴンの後ろから確かに声が聞こえた。
「あ、あの…助けに来てくださった方ですか!?」
女の声だ。まだ若いような…もしかして、さらわれた村長の娘はこの娘か?
「ありがとうございます!あ、あの…そのドラゴンは灯りに弱いんです!」
「灯りに…?」
そんなことを言われても、灯りをつけるものなんて持っていない。
「そ、その木の棒…!私の方に向けてくれませんか!?」
「この木の棒を?あ、ああ、いいけど…」
とりあえず木の棒をその女に向けてみる。
すると、その瞬間。
「ファイア!!」
「うおっ!?」
女が叫んだと同時に、木の棒の先に明るい火が灯った。
今のってもしかしなくても…
「グギャアアア……」
「っ……い、今だ!!こっちに!」
「は、はい!」
ドラゴンが目を伏せた隙に、女に手を伸ばす。
手を握り返した女の手は、少し震えていたような気がした。無理もない。こんなドラゴンに暗くて湿っぽい場所に連れてこられて、怖くないわけがない。俺だったら間違いなくチビっている。
「とりあえず…走るぞ!!」
「は、はい!あ、私、リィルって言います!リィル・アピタ!!」
「アピタって…やっぱりあの村の村長の娘だな!」
「あ、アピタ村の方じゃないんですか…!?じゃあ、旅人さん…!?」
「まあ、村の住民じゃねーけど…っつーか、走りながら話してる場合か!!」
「あ、ご…ごめんなさぁい!!」
走りながら会話をするのは割と疲れる。
リィル、と言ったその女は、毛量が多く長いポニーテールと、膝丈までのスカートを揺らしながら精一杯走っている。
俺も、木の棒を持ったまま走るが、一向に出口が見つからない。
「お、おい、なんでだよ…さっきは一直線だっただろ!!」
「こ、この洞窟の噂、聞いたことがあります…!主であるドラゴンが怒ると、洞窟自体の形状が変わってしまうって…!」
「な、なんだよそれ!?…待てよ。ということは…」
「グオオオオ!!!!」
「「やっぱりいいい!!!!!」」
怒り狂ったドラゴンが俺達を猛スピードで追いかけてきている。
暗くてよく見えなかったが、赤い色をしたドラゴンがマジで怒っているということは一目瞭然だ。
「は、はぁ…はぁ…もう…ムリ…」
「え!?きゃっ!」
俺だってリィルだって人間だ。
走り続けて疲れたら足がもつれる。
俺の足の力が抜けたと同時に、俺の足にひっかかったリィルも転ぶ。
そのせいで、ドラゴンの牙だらけの大口が、遂に俺たちの頭上にあるという絶望的な状況が出来上がってしまった。
「悪いな…俺なんかが余計なことしなければ、他のもっと強ぇ奴に安全に助けてもらえたのに…」
「いえ、ここに来てくれたのは貴方が初めてなので…嬉しかったですよ、私」
「リィル……」
「旅の方……」
「ってやってる場合か!!!俺達このままだと明らかに…死……」
「グルルル……」
ゆっくりと上を向くと、瞳孔の開いたドラゴンのでかい目と目が合う。
「グオオオオ!!!!」
「きゃああああああ!!!!」
(もう、本当にダメだ……っ!)
リィルが悲鳴を上げて、俺も死を覚悟したその時。
「……に消えよ。パニッシュメント」
「グゥ……?グッ……!!!」
「………え?」
どこからともなく声が聞こえたと同時に、ドラゴンの様子が変わる。
赤い体色は青緑に変わり、俺達のことをよそ目にのそのそと洞窟の奥へ帰っていった。
「どういう…ことだ…?俺…生きてるよな…?」
「うぅぅ……あれ、私…無事…?」
「2人とも。大丈夫?」
俺とリィルが生存確認をしていると、さっきの声の主が手を伸ばしてきた。
小学生くらいの小柄な少女だ。
「…ああ。大丈夫。ありがとう。お前…何者なんだ?」
「助けてくれてありがとうございます。ええと……」
「ソフィア」
「ソフィアか。おかげで助かったよ」
「ソフィア…むぅ…」
「リィル?どうかしたのか?」
「い、いえ…なんでもないです」
「2人はどうしてこんな所にいるの。危ないから近づいちゃダメなのに」
「あ、えーと、それは…」
「あのドラゴンに私が攫われてしまったのを、この方は助けてくれたんです」
リィルは、俺に被せるように話した。
「そっか。勇気ある行動はすごいと思うけど…次からはやめなよ。レベルにあった場所を選ばないと」
「レベルって…なんだよそれ」
「あ、旅人さん…」
少しカチンと来てしまった。大人気ないのはわかってるけど。
「人助けにレベルなんて必要なのかよ」
「自分も危険な目に遭ってるんだから、元も子もないでしょ」
「だからって……」
少女の言うことに一理はあることはわかってる。
それでも、なんだか納得いかなかった。
「大体、お前こそこんな所で何してんだよ。助けてくれたのはありがてーけど…まだ子供だろ?それこそ危ねーだろ」
「子供……?」
「ふ、2人とも!!落ち着いてください!!」
少しソフィアの顔に影が入った瞬間、リィルは割って仲裁してくれた。
半分以上俺のせいだが、このまま嫌な空気が流れるのを止めてくれたのは幸いだ。
「とりあえず…この湿っぽい場所から出ませんか?こんな所にいるから、不安になって喧嘩になるんですよ。それに、私のお父さんも私のことを心配してるだろうし…」
「…そうだな。とりあえず、早く出よう。さっきのドラゴンの様子だと、洞窟も元に戻ってるはずだ」
俺達は、リィルの言う通り外に出ることにした。
「…ほら、お前もとりあえず外に…って、あれ?」
ソフィアの方を振り向くと、そこにはソフィアはいなかった。消えた…というのが正しいのか。
「あれ…?確かに今ここにいたよな…?」
「…………あっ!!!」
俺がキョロキョロしていると、リィルは突然大きな声を出した。
「うわっ…なんだよ、急に」
「思い出しました!!ソフィアって…ソフィア・フローレン様ですよ!四賢者の一人の…世界で一番の魔法使い様です!!」
「はっ!!?」
「四賢者は…その名の通り世界に4人しかいない、最強の魔法使いのことで…魔法使いなら誰もが夢見る最高権力者のことです…。そしてソフィア様は、その四賢者の中でもトップクラスの実力者…つまり…」
「俺…もしかして」
「ええ…旅人さんは、もしかしなくても…そんな神様同然のような魔法使い…ソフィア様のご機嫌を損ねてしまったかもしれません」
俺は………
とんでもないことをしてしまったようだ。
「俺の」実録:魔導士冒険譚 まくら @hina319
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