2話:「俺の」目覚め
「う……ん?」
眼が覚めると、よくわからない草むらに寝転がっていた。
さっきまで確か、俺は…
『新たな世界へ、いってらっしゃいなのです!!』
そうだ。
よくわからない空間で、謎の少女に…
キスされて。
「ふわふわ…してた…」
思わず自分の唇を触る。
女子の唇って、あんなに柔らかいのか。
だが、今はそれどころじゃない。
「ここ、日本じゃないよな…?どこなんだ?」
とりあえず立ち上がって見ると、どうやらここは小さな村の中らしい。
辺りでは子供達が騒ぎ、見たことない動物が眠っている。
こんなところで眠ってる男を放置とは、なかなか肝が座った人が多い村のようだ。
…おおかた、異世界転生ということだろうか?
どうやら、死んだら天国に行く、という考えは間違っていたようだ。
とらあえず尻についた草をはらい、さてどうしたものかと考えた瞬間。
ぐぅ〜〜〜〜〜。
腹の虫が盛大に鳴いた。
そういえば、俺は朝飯を食べていなかったな。
あぁ、どうせ死ぬなら、最後に母さんの朝飯くらい食べておくべきだった。
「とにかく、どこかで食料を調達しないとな…」
村だし、店の一つくらいあるだろう。
飯を食ったら、この世界について調べなければ。
自分の計画性の高さに感心し、よし、と意気込むと、俺は村の中心部へと向かった。
〜〜〜〜〜
「えっ?」
「だからねお兄さん、3つセットで、15ゴールド。持ってないならどうして買いに来たんだい」
「あ…えっと、これじゃダメなんですか」
「なんだいこれ。偽の金なんていらないよ!帰った帰った!!」
「わっ、すいません!」
村の中心部に来たはいいものの、どうやらこの世界は、日本とは通貨が違うようだ。
俺の財布の5000円は、この世界では只の紙切れ。
せっかくの樋口さんも涙目だ。
でも、食べないと腹の虫は鳴るばかり。
「はぁ、金なんてどこで手に入れればいいんだよ…」
とぼとぼと街を歩いていると、突然男の声が村に響いた。
「集まれ、集まれ!!!」
「なんだなんだ?」
「なにがあったんだ!」
村中の人が、声をあげた一人のおっちゃんの周りに集まった。
「どうしたんだい、村長」
「はぁ、はぁ…」
「あの、どうかしたんですか?」
「…お前、見ない顔だな。もしかして旅人か?なら頼みがある」
どうやら声の主はこの村の村長だったようだ。
とりあえず話だけ聞いてみようと思い、村長に声をかけた。
どうやら旅人と勘違いされているが、まあ似たようなものだし、気にしなかった。
「俺の大切な一人娘、リィルが魔獣に連れ去られたんだ!!助けに行ってくれ!!」
「魔獣に!?」
「リィルちゃんが!?」
村長の一言で、人々が湧きだった。
どうやらこの世界には、魔獣が存在するようだ。危険だな。
なんて言ってられない。
女の子がさらわれたなんて、魔獣だろうが変質者だろうが問題だ。
でも、武器も何も持ってない俺は…。
「リィルと共に、無事帰ってきた者には、多額の報酬を渡す!村の者ども、頼まれてくれないか!」
「あの、俺でよければ行きますよ。…何か手がかりは?」
半分無意識だった。
だが、金さえ貰えれば飯にありつける。
目の前の宝箱を放置する奴なんていない。
「ああ、ありがとう、ありがとう。おそらく、このアピタ村からすぐ近くにある洞窟にいるはずだ。あそこは魔獣の隠れ家なんだ」
「洞窟…わかりました」
この村、アピタ村って言うのか。
…というか今のおっちゃんの説明、割と大雑把だな。
まあ、洞窟なんてすぐにわかるだろ。
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「無事に帰ってきてくれ…!」
村の出口がわからずに心配だったが、周りの人々や村長に見送られて、村を出ることには成功した。
だが、村を出てから後悔した。
「はぁぁぁ、俺何も持ってねぇよ…」
人の目がなさそうなところまで草むらを歩き、しゃがみこむ。
剣も盾もないのに魔獣に挑むなんて正直アホだ。
だが、確かに俺は腹が減っていた。
今もずっと腹の虫が鳴っている。
つまり、ここでなんとかして魔獣を倒して、村長の娘を連れて帰らないと、俺は餓死確定だ。
死んでこんな訳分からない場所に来て、また死ぬなんて真っ平御免だ。
「とにかく、洞窟とやらを探さないとな。…それと、この木の棒、一応拾っとくか」
1本だけ落ちていた木の棒。
先に小さな蕾がついているから、桜の木か何かなら落ちた枝だろうか。
とにかく、持っておいて損は無いだろう。
ただ歩くだけではつまらないから、棒を振りながらそれっぽく歩いてみる。
ガキの頃、ランドセルを背負いながらよくやっていた。
子供の頃の記憶か。懐かしいな…。
なんて考えながら歩いていると、俺の脳裏にひとつの不安がよぎる。
「…洞窟、無くね?」
歩いていても洞窟なんてない。
村から近い…って言ってたよな?
もしかして、俺、迷った?
方向音痴ではなかったはずだが…。
「おいおい、まじかよ…これじゃ本当に餓死までのタイムリミットじゃん」
段々、洒落にならなくなってきた。
こんなことになるなら、地図でもなんでも貰っておくべきだった。
今更後悔しても遅いが。
「…そうだ!木の棒!」
ふと、手にした木の棒を見て思い立った。
酷く古典的な方法だが、迷った時はこれが一番手っ取り早い。
すぐに木の棒を適当に地面に放り投げた。
木の棒はカランカラン、と音を立てて、俺から見て右の地点を指した。
「…右だな!」
信ぴょう性なんてないが、ここは木の棒に頼るしかない。
俺は、右に向かって歩き出した。
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